アントニオ猪木をさがして映画レビュー 決して特定されない男の偉大さ
燃える闘魂が没後1年でスクリーンに降臨。全国公開中の映画『アントニオ猪木をさがして』を8日に鑑賞した。ネタバレあり注意。
プロレスラーから政治家までの生き様の幅広さ
映画のつくりとしてまず言えるのは、猪木ビギナーにやさしいつくりになっていたこと。生き様の幅広さが描かれると同時に、その根底にあった闘魂を思わせる猪木の言葉、関係者の見解がゆっくりと列挙されていく。具体的な試合、事件、思い出の数ではウン十年に渡る猪木ファンに追いつけはしないが、猪木の人生を限られた時間で概観できる映画だったのは確かだろう。
猪木が放つ闘魂は人々を魅了し、プロレスラーから政治家までの広いフィールドで繰り広げられてきた。よく知らなかった人は「猪木ってすごい人だったんだね」と思うに違いない。その点では、アントニオ猪木をさがし当てることができる格好の材料になる。福山雅治さん、有田哲平さんという“知ってる人”がナビゲーターなのも大きい。
猪木は追いかけていないけれども現在のプロレスファンである、という人にとってはどうか。これもまた、オカダ・カズチカ、棚橋弘至という“知っているレスラー”が仲介役となってアントニオ猪木をさがし当てることができる。猪木に憧れたレスラーズは猪木に憧れもしたし反発もした。生々しさまでもが描かれ、それをひっくるめての猪木らしさを感じるはずだ。
号泣組から寝落ち組まで映画評価の幅広さ
やっかいなのはウン十年に渡る猪木ファンということになるだろう。秘蔵映像オンパレードというわけではないし、ゆっくりとした振り返りや証言が冗長にも感じられるだろう。
記者はというと、実は先に観賞した知り合いから「観るなら忍耐が必要」とのアドバイスをもらっていた。つまりは「覚悟をもって鑑賞して、面白かったらラッキー」くらいの感覚で“対戦”するに至る。“会場”には途中で席を立つ者、ずっとイビキをかいているツワモノ、なかなかの環境ではあった。
それでいて数人でボソボソッと声を出していた者も含め、肩ひじ張らずに鑑賞できたオールドファンも多かったと思う。
猪木というと生前から著書・テーマ本が圧倒的に出ており、プロレスラーとしては随一であろうし、もしかしたらプロレスラーに限らずとも突出している可能性すらある。そんな猪木を見てきたベテランは、映画一本くらいで改めて猪木像をさがせるには至らない。
どちらかというと感覚は“答え合わせ”に近いか。関係者からの語りの行間が、まさに鑑賞者自身の思い出を引き出しまくる。ときには涙腺を緩ませた。
「圧倒的な人間力だよな、猪木って」
「このとき猪木はこういう役回りだったんだよな」
「本当の気持ちはどうだったんだろ」
そもそも猪木と向き合ってきたファンの歴史は脳内補完の連続だった。スクリーン前には「猪木がいた時間」が再現されたわけで、一周まわって猪木をさがし当てたと言えるのかもしれない。記者としては大いに満足できた時間だった。
目を輝かせながらオカダ・カズチカが猪木との仮想対決を語る
終盤に、オカダ・カズチカが猪木との仮想対決を語っていた。具体的な技の名前を即興で出しながら、目を輝かせる。なるほどオカダは技の攻防により選手同士の気迫のぶつかり合いをクリエイトしファンを魅了する天才なんだなと腑に落ちた。猪木とギリギリ交わった棚橋弘至とともに、プロレスどっぷりの彼らにプロレス界は救われた。
相対的に、猪木はプロレスを手段とし、棚橋・オカダはプロレスを目的としているのではないか。
闘魂をたぎらせて達成したい「目的」が複数あり、ときにはプロレスラーときには政治家ときにはビジネスマンといったいくつもの顔を使う。アントニオ猪木の圧倒的なスケール。そこにはプロレス界の不利益も内包され、周囲の反発につながるときもある。
どちらがいい悪いじゃなく、生きた時代が違う。それこそ限られた娯楽としての「プロ野球・大相撲・プロレス」くらいの昭和を猪木は生き、あらゆるエンターテインメントが成熟する平成・令和を棚橋・オカダは担う。ハチャメチャが許された時代とそうじゃない時代の違いとも言えるのかもしれない。
もっともこれで「猪木さがし」が完結することはない。映画では描かれていないが、猪木のプロレスはストロングスタイルと言われる一方で「アメリカンプロレスを日本に持ち込んだ」とも言われる。マイクアピールを日本のプロレスで最初にやったのも猪木とされ、選手コールに合わせたガウン脱ぎは夜中の鏡の前での繰り返し練習から生まれた。
長く猪木を追えば追うほど、決して特定されない男の偉大さを知る。その思いを強くさせられたというのが記者にとっての映画感想となる。『〇〇をさがして』という題名に名前を入れられる、そんな生き方ができるのは一握りだろう。時間がある方はぜひスクリーンでアントニオ猪木をさがしていただきたい。
新日本プロレス創立50周年企画 映画『アントニオ猪木をさがして』 10/6(金)全国ロードショー
巨星・アントニオ猪木、没後1年―。
壮大な軌跡を追ったドキュメンタリー
新日本プロレス創立50周年企画
映画『アントニオ猪木をさがして』
10/6(金)全国ロードショー
“昭和”から“令和”を駆け抜けた巨星は我々に今、何を語りかけるのか?
アントニオ猪木が伝えたかった、真の“元気”をさがして―。
2022年10月1日、ひとりの国民的スーパースターがこの世を去った。
アントニオ猪木 。プロレスラーの枠にとどまらない、希代のエンターテイナーであった彼の名は、世代の枠を超え、誰しもの耳に轟いていたに違いない。
「バカヤロー!」「元気があれば何でもできる」。猪木が放った名言の数々に叱咤され、勇気を貰った人々も多いのではないだろうか?
あの日から1年、猪木が波乱万丈の人生を通じて伝えたかったメッセージを”さがす”ための1本のドキュメンタリーフィルムが誕生した。
生前の猪木の雄姿を捉えた貴重なアーカイブ映像やスチールの数々。猪木から多大な影響を受けたプロレスラーや各界の著名人たちが、猪木の偉大な足跡を辿る旅に出るドキュメンタリーパートをメインに、猪木から力を貰った名もなき市井の男の半生をも情感豊かにドラマとして描き出す。
さらに、主題歌とナレーションを担当するのは、プロレスファンであり、猪木をリスペクトするアーティストの福山雅治。猪木の入場テーマ曲「炎のファイター」を新たにプロデュースし、映画に令和の‘闘魂’を注入する。
アントニオ猪木の、がむしゃらに生きる姿から、我々は、どんなメッセージを受け取ることができるだろうか―?
迷わず行けよ。行けばわかるさ。
映画『アントニオ猪木をさがして』
10月6日(金) TOHOシネマズ 日比谷 他 全国ロードショー
出演:
アントニオ猪木
アビッド・ハルーン 有田哲平 海野翔太 オカダ・カズチカ 神田伯山 棚橋弘至 原悦生 藤波辰爾 藤原喜明 安田顕 番家天嵩 田口隆祐 大里菜桜 藤本静 山﨑光 新谷ゆづみ 徳井優 後藤洋央紀 菅原大吉
<ナレーション> 福山雅治
主題歌「炎のファイター~Carry on the fighting spirit~」(福山雅治)
監督:和田圭介 三原光尋
製作:「アントニオ猪木をさがして」製作委員会
制作:パイプライン スタジオブルー
配給:ギャガ
©2023「アントニオ猪木をさがして」製作委員会