プロレスという“さぼれない趣味”を誇れ 金沢克彦さんが2022年を大総括
イッテンヨンへの期待。そして新日本の凄さは若手が育っていること
【テーマ③:新日本プロレス】
猪木さんの匂いを感じるレスラー? もちろん柴田勝頼ですよね。黒パンツで妥協しない。ただ現在は試合数が限られているので、現役選手で唯一、猪木さんを超える可能性を持っているのはオカダ・カズチカ。やっぱりオカダはスペシャルですよね。体格だったり強さだったり。ファイトスタイルがだんだん似てきたっていう。特に感じたのはG1の武道館初日のランス・アーチャー戦。ランス最高の試合でもあるんじゃないですか。ランスのパワーを受け切ったオカダ、ランスのレインメーカーの受けっぷり。あれは本当に猪木さんと被ったんで、2022年のベストバウト候補ですよ。
有明アリーナでいうと、キャリア5年でウィル・オスプレイとあれだけできちゃう海野翔太は驚異的です。オスプレイっていま一番すごいじゃないですか。オスプレイがリードしているところはありますけど、ついていって切り返しもできる。見た目はほぼ棚橋で、技の中に内藤哲也のエッセンスが入って感じられる。オスプレイと渡り合える選手は限られてますからね。海野はこんなによくなって帰って来るとは思わなかった。
[11・20有明オスプレイvs.海野に観客熱狂。メインに次ぐ大会ベストバウトとなった]
イッテンヨンはオカダvs.ジェイ・ホワイトですか。ジェイってオスプレイとやったらどうなるんですかね? 全く違うじゃないですか。でもまぁ、オスプレイはケニー・オメガと対戦になる。“今のケニー”がどうなのか。新日本の全盛のケニーなのかが問われるし、試合内容も読めなくて・・・これ、面白いですね。たまんない。
TV王座決勝のザック・セイバーJr.vs.成田蓮。成田は昔から素質があったし、将来絶対化けるなあと思って、海野より成田が化けるくらいに思ってました。成田はどうやって自分のオリジナルをつくっていけるかですよ。ドームでは絶対に地味な試合でしょうけれど、ザックとのテクニック合戦で「オッ、オッ、オッ」というものを見せてくれたらいいんじゃないかと思いますよね。
新日本は海外に上村優也と辻陽太もいる。絶対に主力に上がってくるから、新日本の明日はそういう意味では明るいなぁと思いますよ。新日本の凄さは若手が育っていることですよね。日本にいるヤングライオンもいい。
武藤敬司は猪木さんと別の意味で世界最高。猪木さんができなかったことをやった
【テーマ④:武藤敬司】
武藤敬司は猪木さんとはまた別の意味で世界最高のレスラーですよね。猪木さんができなかったことをやった。フレアー、スティング、レックス・ルガーと並んでNWA四天王とまで称された男だから。猪木さんは武藤に対して若干のジェラシーはあったんじゃないかと思うんですよね。武藤は武藤で猪木さんの言うストロングスタイルにピンとこなかったんだと思う。新日本プロレス道場育ちだけど、根っこはアメリカンプロレスなので。
[11・20有明。武藤敬司を代理人とするグレート・ムタが新日本ラストマッチ]
武藤はアメリカの話が好きだから、タイガー服部さん、マサ斎藤さんとよく話をしてて。世界中がムタを知ってますからね。ムトちゃんとは同年代で友達だけど、よくここまでやったなと。1990年代後半からちゃんと歩けないんだから。そこから20年以上もやってるわけでしょ。(ここから武藤引退試合の相手談義、プロレス大賞が誰になるか談義)
(武藤が所属するノアの話題に)リデットエンターテインメント体制下だったときにくらべて、清宮海斗は進化してますよね。プロのレスリングができるようになっている。ここ一番の試合の精度は途上かもしれないけれど、経験は積んでる。元日の拳王との試合はいい試合間違いなしだけど、“いい試合”を越えられるか、凄味を見せられるかが問われるでしょうね。
(イベント締め)猪木さんが亡くなってひとつの時代が終わったなと思います。けど、プロレスっていうのはものすごく特殊なジャンルで、数年前には総合格闘技と比較されてきたじゃないですか。どうのこうの言われて。いまはまったくないじゃないですか。総合格闘技で何十万の席が完売しているらしいのですが、取り巻きなのか何なのか、社会現象にはなってないと思うし、露出はプロレスの方がはるかに多いじゃないですか。引退した選手のテレビ出演も多い。
猪木さんが「プロレスに市民権を」って言ってきたけど、市民権を得てると思うんですよね。プロレスがプロレスとして認められてる。だから、プロレスを好きな人はどんどん会場に行ってほしいですね。せっかく興味を持ったんだから見てほしいなと思います。ぜひ自分なりにプロレスを楽しんでこれからも応援してください。そして来年もまたここでお会いしましょう!!
(トーク感想)プロレスを見る際の“行間”を埋めるかのようなGKオフレコトーク
トークはいかがだっただろうか。
途中で金沢さんが「これは記事に書こうとして、でも誰も得しないからやめたんだけど」と触れたトピックスがあった(暴露的なものではありません)。具体的には書かないが、そのオフレコをこの場限りで共有することで「なるほどプロレスってそうやって考えるべきものなのか」と唸らされる。
数々のオフレコトークはプロレスを見る際の“行間”のようなものだったのだ。サービス精神から大爆笑できるものだらけだったが、レスラーをリスペクトしつつ“あるべきふるまい”を問うものが多数含まれていた。そのすべてがプロレスの奥深さを浮き彫りにするもので、これはナマのトークでしか味わえない。
次の話も、その場の空気感で参加者と通じ合った話なので、金沢さんの話を再現ではなく、補足しながら文章として記したい。
札幌オリンピック(1972年)の70メートル級ジャンプの金メダリスト笠谷幸生さんが「仕事はサボれるけどスキーは自分にとって趣味だから絶対にさぼれない」と言った。これを金沢さんは最近になって意識するようになったんだという。コロナ禍でプロレス界が打撃を受け、各団体は必ずしも思ったような展開を貫くことができなくなった。猪木に魅了され業界に入った金沢さんは「プロレスは趣味だからさぼれない」だったはずなのに、気がつくと「仕事」と思って向き合う場面もあったのだという。
猪木さんが亡くなり昭和プロレスは終焉ムードだが、いくつもの団体がネクストステージを感じさせるトピックスが増えてきた。スターダム12・29両国、ノア1・1日本武道館、新日本1・4東京ドームが大きな起点となってコロナ明けへと進もうとしている。「同年代のムトちゃんが引退するんで俺もそろそろ・・・絶対やめないよ!! だいぶ“趣味”レベルに戻ってきたから」。
大阪のプロレスバー「カウント2.99」は旗揚げ12周年。コロナ期も含めて、金沢さんのトークイベントは1度も途絶えず、12年連続開催となった。金沢さんは引き続きプロレスファンにとっての水先案内人としていてくれる、その思いも途絶えないことを約束してくれたイベントとなったのだ。