
MIRAI「欲深く突き進む」 その真意とベルト・ユニット・対抗戦への思い
2月20日、ボジラとのワールド王座挑戦者決定戦に敗れ、頂点に立つ機会を失ったMIRAI。一方で、MIRAIの試合グレードこそがマリーゴールドという見方をするファンも多い。団体としてはマーベラスとの対抗戦も始まろうとする中で、MIRAIに思いを聞いた。
(14日、カクトウログによる取材)
技の精度は練習で上げていくが、同時に“技頼み”じゃないプロレスをやりたい
カクトウログ マリーゴールドはルーツ異なる選手たちの集合体です。旗揚げから1年になろうとしていますが、団体としての足腰をつくりあげたものに「MIRAIvs.青野未来」の複数回フルタイムの試合クオリティがありました。あのときの闘いに込めた思いは、ふり返るとどういうものでしたか。
MIRAI 観ている側にどこまで伝わったかはわかりませんが、私としてあの闘いに詰め込んだものはとてつもなく“重い”です。もちろん初代王者を決めるわけですから、一番は『ベルトがほしい』。そのうえに『マリーゴールドとしての闘いを見せつけたい』。加えて、青野選手はアクトレスガールズのエースと言われ続けてきた方なので『やってきたもので負けたくない』。過剰な思いで身体を火照らせて試合に臨みましたね。
カク 今年に入ると山岡聖怜選手のデビューがありました。スーパールーキーからは「MIRAIさんは何でもできる」という発言もありました。山岡選手との顔合わせで描きたい闘いもあったのでしょうか。
MIRAI 私の場合は柔道がルーツですが、所々で柔道ベースの技を出すことはあっても、そっちに振って試合をするわけではないんです。逆に聖怜はレスリングベースの試合をしたいという思いがあるんだと私は受け止めました。グラウンドとかにもじっくりつき合ったし。マリーゴールドでグラウンドで魅せられる選手が現状は少ないからこそ、そういう闘いはしたいなと。あとは“厳しく”いきました。それと聖怜に『何でもできる』と言われてますけど…そんなことはないッ(笑)。
カク そんな謙遜を。
MIRAI いやいや本当に。自分もともとKAIENTAI DOJOの練習生で入って、その前は柔道をずっとやってた。プロレスと柔道でかぶっている動きとかはずっとやってきてるから、慣れてるじゃないですか。でも私は言われてすぐできるタイプの人間じゃないので、もう何回もこなして、練習してできるようになるタイプ。だから、もうそのときのKAIENTAI DOJOの先輩たちからしたら『あのときのMIRAIが』という感じもあると思うんですよ(笑)。
カク そうなんですね。
MIRAI 自分もデビューに1年かかってますし、東京女子プロレスの2年間は“何もなかった”状態だったんで。スターダムでやっと花が開いたところはあって。スターダムのところだけ見られて順調っぽい、何でもできるような感じで最近は見られて、嬉しいっちゃ嬉しいんですけど、そんなこともない。聖怜は言うなれば少しやればすぐできるくらい、運動神経もいいし。だからガツガツいっても、『デビュー戦でそれやるの?』ってことをやってもついてこれるだろうなって…まあスーパールーキーなんで。
カク 最近、SNS上でのマリーゴールドの「技の失敗動画」が話題となりました。マリーゴールドの選手勢に足りていないものはどこにあるのでしょうか。
MIRAI 見たことあります。みんなはどう感じているかわからないですけど、「なんでこんなのあげるの」って見解は多い気がしますね。でも自分は冷めてるところもあるのかな。そのネタ提供してるの自分たちじゃんって思う方なので。どうせ切り取りあげられるんだったら『すごい技集』みたいな方で切り取られたいじゃないですか。
カク はい。
MIRAI だから、技の精度は上げていくしかないから練習するしかないんですけど、自分の場合は批判とかも全然見るし、直すしかないところもある。あとは“技頼りなプロレス”をしようとするから、そういうのが起きるのであって、若手とか特に技とかなくていいじゃないですか。もう気持ちで見せれるじゃないですか。だからもっとそっちの方を教えていきたいなぁと思いますね。
対峙した時点で気持ちがなかったらもうお客さんからわかってしまうのが対抗戦
カク 11日の新宿大会ではマーベラス勢の乗り込みがあり、対抗戦の機運が高まっています。これに際して、彩羽匠選手から「マリーゴールドは育ってない。正直マーベラスだったらデビューできてないレベルですよ」との発言がありました。マリーゴールドにはマリーゴールドの事情もあると思いますが、どのように受け止めましたか。
MIRAI マーベラスにはやりたいやつがいますよ。ツイートもしましたけど。
【自分は団体を背負って闘える選手であると自負している。マリーゴールド、なめんなよ。眼中にいるのはあいつだ(3月11日、MIRAIのツイート)】
MIRAI その前に、デビュー基準についてはマリーゴールドの中にも複数意見があるので、考える材料にはしていきたい。ちょっとマーベラスを誉めることにもなりますが、脳震盪で欠場した選手を、脳震盪自体は大丈夫だけど練習不足なので欠場という判断が最近ありました。
【弊社所属、彩芽蒼空ですが、2/24の試合で中度の脳震盪と診断され、療養期間は終了していますが、十分な練習時間が取れなかったため、大事をとって今大会を欠場とさせて頂きます(3月11日、マーベラス)】
MIRAI そういう判断ができる団体なんだ、マーベラスは…とは思って見ています。練習と試合はつながっているんですよ。
カク スターダムに彩羽選手が出ていた時期(「5★STAR GP 2021」など)、そのときの林下詩美選手クラスとの闘いをどう見ていましたか。あるいは最近の彩羽への印象はありますか。
MIRAI 私はまだスターダムにいなかった時期ですが、流れてくるものは見てました。誉めることになってはしまいますが、かっこいいしうまいと思って見てましたよ。
カク 本当に、オールラウンドですよね。第1試合に出てきて若手とやってもすごいし、男子を相手にしてもすごいし。
MIRAI 誰と闘っても埋もれないものがありますよね。
カク マーベラスとの対抗戦でマリーゴールドに問われるもの、補っていかなければいけないものは何だとお考えですか。
MIRAI もう『気持ち』じゃないですかね。若手らしい『負けたくない』『何でもやったるぜ』『登り詰めてやるぜ』みたいな気持ちがもっとないと。気持ち次第で何とでもなるじゃないですか。気持ちがあれば伝わる。まず気持ちで折れてたら、絶対に対抗戦なんで、最初のゴングが鳴る前、対峙した時点で気持ちがなかったらもうお客さんからわかってしまう。
カク それくらいガラス張りになるような闘いかもしれないですね。マーベラス勢との乱闘になった際には、MIRAI選手もリングに上がっていました。
MIRAI もちろん準備はできていますので。
ユニットは重要な選択になるし、つくるならみんなで伸びていくユニットを
カク マリーゴールドでの闘いに話を戻すと、1日には「自分はユニットっていうものにすごい今、興味があります。けどユニットって言うのは、どこに入るか、何を選ぶかで人生が変わってくる。そのぐらいの選択だと思ってます」とツイートされていました。
MIRAI ボジラに敗れてワールド王者挑戦権を奪えなかったわけですが、ユニットがなくて個人の力だけだと、自身の存在感を高めているアプローチが限られるんです。旗揚げから1年ですから、ユニットを伴って動いていくというのも視野に考え始めているんです。はっきり言うと『つくりたい』。
カク ほう。
MIRAI スターダム時代に、ユニットにすごい恵まれて。DDM、God’s Eye…すごい頑張れる環境だったなぁと。だからこそ登ってもいけた。どういうユニットに身を置くかで変わってくるというのも感じている。伸び悩むこともあるかもしれない。その時点で選択肢があるなら重要な選択になるし、つくるならみんなで伸びていくユニットにはしたいんです。
カク ボジラ選手とのワールド挑戦権獲得戦に敗れるも、8日には「近くにいればいるほど、やっぱり(ベルトが)欲しい」発言がありました。改めてMIRAI選手にとってベルトの価値とはどういうところに。
MIRAI ベルトは…欲しいですね。(ワールド王者の)林下詩美と闘いたい気持ちも変わりません。またたぐり寄せていかないといけませんけど。ベルトは価値のあるものだと思ってるので、誰でも挑戦して良いものではないと思うんですけど、ボジラに負けてしまったので挑戦権がないじゃないですか。けど、決して遠くはないと思うんですよね。今までだったら『挑戦権取れなかった、そうか…』で心の中の欲しい気持ちを発信せずに抑えてしまっていましたが、やっぱり気持ちは発信していこうと。
カク 諦めることはないと。2月13日、会見時の「今年は欲深く突き進むって決めたんで」との言葉も印象に残っています。
MIRAI いつも心の中に自分の思いをしまいがちだったかもしれない。今年は出していきたいんです。年越しのときから今年の目標としてそれを掲げたので。ボジラが勝っても林下詩美が守っても獲りにいきたいし、誰とやってもベルトにふさわしい試合ができる自信がある。獲る自信もあると言いたいけど、負けちゃったところはあるんで…自身を鍛え直しますよ。
カク MIRAIファンのコメントを検索すると、本当に試合を見ている印象がありました。「クオリティの高いプロレス」「気持ちがカッコイイ」「大きく成長した」「対抗戦に向かってほしい」との期待がありました。応援してくれているMIRAIファンにメッセージをいただけますか。
MIRAI メッセージの前になんですけど、ファンを見たらどういう選手なのか何となくわかる気がして。
カク 合わせ鏡的な。
MIRAI そうです、なんか似てるなぁと。プロレスラーとして試合を見てもらうことは大事だし、自分はちゃんと試合を見てほしい気持ちはあります。いま紹介してくれたコメントは、すごく誇りというか嬉しいですね。それで応援もしてくれるんですけど、また新しい結果を出して恩返しをしたいです。元々の友達がTEAM MIRAIというのをやってくれてて、その中でめっちゃ応援してくれてた人が急に亡くなって。
カク そうでしたか。
MIRAI 物販とかも来てくれて「MIRAIのプロレスから元気をもらった。人生変わった」ってチームの中で言ってくれてたみたいで。それを聞いて、人の人生に影響を与えられる職業なので、絶対に中途半端にやってちゃいけないものだと思う。全力で応援してくれるものに対して、MIRAIも全力でプロレスをして返していきたいと思います。
カク 14年前、東日本大震災で「これからどうやって生きていこう…」と考えたところからのプロレス興味がありました。ズバリ、MIRAI選手は「プロレスに生きる」ことができていますか。
MIRAI 本当、震災後から今まで、人生プロレスですね。いや本当に。プロレス馬鹿なんで。いい意味でも悪い意味でも。プロレスにまっすぐすぎるかもしれません。中途半端を自分に感じるときは嫌になる。プロレスに生きているし、プロレスに生かされてますね。プロレスがないと出会えなかった人とか、出会えなかったこととかいっぱいあるから。
取材場所から駅までお見送りしながら、「〇〇選手、△△選手とか気迫はけっこういいと思うんですけど何が課題なんですか」と聞いてみる。MIRAIによると「〇〇選手は後は技術ですね」「△△選手はワンテンポ遅れることがあるんで、レスラーが負傷明けに勘を取り戻すチャンバラを取り入れるとかあっていい」などと答えがどんどん返ってきた。
インタビューで自身のことになると考え込む場面も多いが、まわりの選手のことを一定割合で優先して考えているんだなと思わされた。それがMIRAIのよさでもあり、押しの弱さなのかもしれない。そしてマリーゴールド愛なのかもしれない。
それでいて試合。林下、青野、ボジラ、メガトン…誰とやっても「やっぱりMIRAIはやってくれるよな」という“読後感”のようなものが残る。きっとMIRAIにはいくつものやりたいことがあって、そのどれをも止めることはできないだろう。
だからこそ突き抜けられないままでいるのか、貪欲によくばって強行突破してくれるのか。最後の砦のように、マリーゴールドにはMIRAIが構えているのだ。
♯17 MIRAI プロフィール
魂の申し子
◆生年月日:1999年12月3日
◆出身地:岩手県宮古市
◆身長:163㎝
◆体重:60㎏
◆デビュー戦:2019年5月3日、後楽園ホール(vs天満のどか&愛野ユキ、パートナーはYUMI)
◆ユニット歴:Donna del Mondo→God’s Eye
◆得意技:ラリアット、ミラマーレ、ミラマーレショック
◆タイトル歴:第19代ワンダー・オブ・スターダム、第31代アーティスト・オブ・スターダム、第26代ゴッデス・オブ・スターダム、シンデレラ・トーナメント2022&2023優勝、初代ツインスター王座
◆小学生の時に東日本大震災で被災。復興チャリティーの格闘技&プロレスイベントを観戦したことがきっかけとなり、プロレスラーになることを決意すると手始めに柔道を習う。高校卒業後に上京、東京女子プロレスで舞海魅星(マイウミ・ミライ)のリングネームでデビュー。柔道を活かしたパワー・ファイトで奮闘していたが2021年8月末で退団。その動向が注視される中、12月になると正体不明のままスターダムに謎の怪覆面軍団のメンバーとして乱入。2022年1月3日、新宿大会にDonna del Mondoの新メンバーとして正体を現し、リングネームをMIRAIと改めスターダムに正式に登場を果たした。2024年よりマリーゴールドに在籍。桜井麻衣とのタッグで初代ツインスター王座を獲得。
(対戦カード)MARIGOLD Spring Victory Series 2025 3月30日(日)後楽園ホール
■マリーゴールド MARIGOLD Spring Victory Series 2025
日時:3月30日(日)11:30
会場:東京・後楽園ホール
<マリーゴールド・ワールド選手権試合>
[第2代王者]林下詩美
vs.
[挑戦者]ボジラ
※詩美は2度目の防衛戦
<ツインスター選手権試合/マリーゴールドvs マーベラス団体対抗戦>
[第4代王者組]高橋奈七永&山岡聖怜
vs.
[挑戦者組]彩羽匠&暁千華
※奈七永&山岡は2度目の防衛戦
<ユナイテッド・ナショナル選手権試合>
[第2代王者]桜井麻衣
vs.
[挑戦者]山中絵里奈
※桜井麻衣は3度目の防衛戦
<6人タッグマッチ>
MIRAI&青野未来&ちゃんよたvs 野崎渚&メガトン&ギガトン
青野「ロッシーさん、私怒ってます。なんですかこのカード、マリーゴールドの後楽園でこのカード…何なんですか?このふざけた奴ら…」
MIRAI「まあ野崎が相手にいるので、野崎はMIRAIの事が大好きで大好きで仕方ないみたいなので、その遊びに付き合いながらも、心折れずにしっかり力の差をみせつけて、勝たなきゃいけないカードだなと思います」
<タッグマッチ>
翔月なつみ&後藤智香vs CHIAKI&松井珠紗
<タッグマッチ>
ビクトリア弓月&田中きずなvs 瀬戸レア&勇気みなみ
<タッグマッチ>
ハミングバード&リアラvs 咲村良子&橘渚
(対戦カード)~マッスルバージャパンpresents 終わりよければすべてパッション! 4月14日(月)新宿FACE
■~マッスルバージャパンpresents 終わりよければすべてパッション!
日時:4月14日(月)18:30
会場:東京・新宿FACE
<パッションファイナル>
高橋奈七永&優宇&MIRAI vs 橋本千紘&水波綾&山下りな
MIRAI「ずっとやりたいなと思ってた選手とか、ずっとずっとやり返したいと思っている選手とか、言葉に出来ないような感情に今なってます。マリーゴールドの選手はすごいって思われるような試合を自分はします!」
<タッグマッチ>
青野未来&高瀬みゆきvs堀田祐美子&叶ミク
<シングルマッチ>
松本浩代 vs 後藤智香
<ナナモモ☆ファイナル>
高橋奈七永&中西百重vs 山岡聖怜&ビクトリア弓月