胡散臭いガード下のレジェンドに脚光 ノアが起こし続ける奇跡とは
29日、ノアが年内最終興行として『杉浦軍興行 犬ども全員集合!2 ~杉浦貴デビュー20周年記念大会~』後楽園ホール大会を開催した。
12月29日(火)後楽園ホール 杉浦軍興行 犬ども全員集合!2 ~杉浦貴デビュー20周年記念大会~
■ ノア 杉浦軍興行 犬ども全員集合!2 ~杉浦貴デビュー20周年記念大会~
日時:12月29日(火)18:30
会場:東京・後楽園ホール 観衆未発表
<シングルマッチ>
〇藤村加偉
(6分18秒 逆片エビ固め)
●矢野安崇
<タッグマッチ>
●井上雅央
齋藤彰俊
(13分00秒 キン肉バスター→片エビ固め)
谷口周平
〇モハメド ヨネ
<6人タッグマッチ>
YO-HEY
吉岡世起
〇大原はじめ
(15分31秒 トレスフルール)
●宮脇純太
小峠篤司
原田大輔
<タッグマッチ>
稲葉大樹
〇清宮海斗
(17分42秒 ストレッチプラム式フェイスロック)
●岡田欣也
丸藤正道
<タッグマッチ>
●稲村愛輝
潮崎豪
(18分11秒 ダブルアームスープレックス→ギブアップ)
〇鈴木秀樹
藤田和之
<杉浦貴20th記念試合~SHOWDOWN~杉浦軍vs金剛 7vs.7イリミネーションマッチ>
仁王
覇王
タダスケ
征矢学
●マサ北宮
中嶋勝彦
拳王
(45分10秒 オリンピック予選スラム→体固め
村上和成
中村大介
カズ・ハヤシ
NOSAWA論外
ケンドー・カシン
桜庭和志
〇杉浦貴
※杉浦選手1人残りで杉浦軍の勝利
カズ(10分58秒 パワープラント→片エビ固め)覇王
中村(12分06秒 腕ひしぎ十字固め)タダスケ
征矢(13分10秒 エビ固め ※叩きつける)中村
中嶋(16分22秒 オーバー・ザ・トップロープ)村上
拳王(19分05秒 オーバー・ザ・トップロープ)カシン
仁王(21分30秒 オーバー・ザ・トップロープ)カズ
桜庭(22分57秒 変型羽根折り固め)仁王
桜庭(26分01秒 オーバー・ザ・トップロープ)拳王
北宮(30分40秒 セントーン→片エビ固め)桜庭
中嶋(34分50秒 両者オーバー・ザ・トップロープ)NOSAWA
杉浦(36分31秒 フランケンシュタイナー)征矢
潮崎と藤田が9か月ぶり睨み合い 杉浦と北宮がショルダータックル対決
もう「本当に参りました」としか言いようがないのだが、お祭りだと思っていた杉浦軍興行はアドレナリン出まくりの大会だった。クライマックスは「潮崎と藤田が9か月ぶり睨み合い」と「杉浦と北宮がショルダータックル対決」だろうか。
前者の睨み合いについては、セミファイナル。3・29無観客後楽園での潮崎vs.藤田GHC戦の再現である。3月の試合は東スポプロレス大賞ベストバウト選考で「オカダvs.内藤」と競り負けたのだが、それが知名度をさらに上げた。今回の潮崎と藤田の先発で“どんな続き”が見れるのかという期待は、万雷の手拍子となって表現される。始まるや3月と同じ不動の睨み合いなのだから最高だ。3月のときにセコンドとして「動きましょう」と檄を飛ばし続けた鈴木秀樹が、今回は強引なタッチで強制終了リングイン。こういう周辺のディティールもものすごく大事。
後者のショルダータックルについては、メイン。両チーム残り1選手となった時点で始まった。もともと杉浦軍と金剛での序盤の名物であり、杉浦軍メンバーによるボスいじめとばかりに「さあボス、北宮とタックル対決、いきましょう」と送り出されてのネタ。これが35分を超えたところでいつも以上のエンドレスなのに驚いたし、ショルダータックルだけではないハードヒットな最終顔合わせとしての感動ファイナルを迎えた。
久々の見参となった村上和成もまた実によかった。キャラ全開のまま金剛のメンバーの前に立ってみせる。中村大介もスピーディーな関節地獄で“らしさ”を発揮して、新しいファンにプロレスの幅を見せつけた。
杉浦軍興行の3日前、それまでの発言のくり返しではあったが、金剛の拳王がこのような言葉で杉浦軍を表現する。
拳王「連れてくるな、連れてくるな言ってるけどな。やっぱり連れてくるんだろ? しかも! なんだよ、村上和成って。胡散臭いガード下の居酒屋で飲んでる仲間たちだろ? 杉浦軍興行はあと3日後か。俺たちイリミネーションで当たるんだろ? 杉浦軍興行だけど、花を持たせる気はないぞ。俺たち金剛の強い信念を見せつけて、ボコボコにしてやるからな」
胡散臭いガード下で飲んでいるかどうかは別にして、杉浦軍のメンバーはそうそうたる顔ぶれである。特に藤田と桜庭はネームバリューと存在感でも別格。ところが、いわゆる「プロレスがうまい」とはファンからは思われず、試合クオリティもノア本格参戦前は不安視されていた。
それが“プロレス大賞ベストバウト実質2位”(潮崎vs.藤田)だったり、“最優秀タッグ”(杉浦&桜庭)だったりするのだ。敢闘賞受賞となった潮崎豪のステータスも、藤田への勝利で高まった側面は大きい。いったいノアで何が起きているのか。
藤田の試合では必ず相手に、藤田の破壊力が受け止められる人員を配置されていると言われていた。谷口周平、潮崎豪あたりであり、ときには中嶋勝彦も前に出ていた。「プロレスうまいんですか」の前に「技をしっかり入れてもいいですか」という話だ。藤田は試合を重ねているうちに「ノア勢は誰もがNGなしで、技をしっかり受け止める」ということに気づく。
方舟で踏ん張り続けた男たちに健介道場で鍛えられた男たちも合流しつつ、いつの間にかノアはとんでもない集団になっていた。もちろん藤田サイドも「壊れないから、ガンガン入れてこい」というスタンスである。ノア勢にとっての対桜庭をみていても、プロレスラーvs.グラップラーとしての構図をうまくつくれるようになってきているなぁという気がする。
「プロレスがうまい」選手を招き入れることが、いつのまにか外敵起用法になっていた昨今のプロレス界。ここにあって、「プロレスがうまい」とは違う劇薬を入れたら対処できる集団がいた。
プロレスファンならみんな知っている。プロレス界においては、脚光が当たれば必ずしも輝くほど単純じゃないことを。もちろんレジェンド側の努力だってあるだろうが、こうしたレジェンド起用による世界観は、ノアが“輝かせる”ことで成り立っていることも事実だ。これはノアが起こし続ける奇跡のひとつだとボクはみている。
水道橋で大忘年会終わりの杉浦貴・桜庭和志・武田ノア統括と遭遇
杉浦軍興行が終わったあと、ボクは関係者とマスク会食で意見交換をしていた。23時をまわった水道橋、杉浦軍大忘年会終わりに遭遇する。
選手待ちだった武田有弘ノア統括に「今日の大会は最高でしたね。まさか睨み合いの続きが見られるとは」と声かけ。武田統括は「よかったと思います。前回の潮崎vs.藤田から時間が経ったんで、もっと多くの人に前回を知ってもらえてたら、もっと楽しめたと思うんですよね」。
その場から藤田が挨拶をして去っていく。杉浦が桜庭をからかいながら、送りのバンに乗せようとする。武田統括「今のうちにナビに住所を入れますね」。杉浦と桜庭を乗せたバンを武田統括自らが運転していくようだ。
熱いスピリットと、楽しむ心と、一人ひとりでクリエイトする姿勢。どこまでもノアを“堪能”したボクは水道橋を後にしたのだった。