武藤「次は1人欠けるかもしれねえから」 コロナ禍中の金曜夜に猪木60周年
1960年9月30日にデビューしたアントニオ猪木にとって、2020年はデビュー60周年。武藤敬司がプロデュースする『PRO-WRESTLING MASTERS』2・28後楽園ホール大会にて「燃える闘魂60周年メモリアルセレモニー」が開催された。
・ 2-28【MASTERS】60周年・猪木が武藤、前田らに闘魂ビンタ コロナ禍中も武藤「やってよかった…プロレス格闘技DX
『PRO-WRESTLING MASTERS』東京・後楽園ホール(2020年2月28日)
「燃える闘魂60周年メモリアルセレモニー」猪木がデビュー60周年メモリアルセレモニーで武藤、蝶野、長州、前田に強烈なビンタで闘魂を注入。最後は「1、2、3、ダー!」の雄叫びで後楽園を沸騰させた。新型コロナウイルスの拡大を受けて、イベント中止が危ぶまれる中での開催となったが、武藤は「今の時点では本当にやってよかったと思っています」と語った。
アントニオ猪木は1960年9月30日、日本プロレスの台東区体育館大会における大木金太郎戦でデビュー。今年が60周年にあたる。レジェンドレスラーたちが集うMASTERSだが、第7回大会にして遂に猪木が登場し、60周年を祝うメモリアルセレモニーが開催された。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、スポーツイベントの中止が相次く中で開催された今大会。チケットは完売だったが、キャンセルに応じたこともあって空席も目に付き、観客の大半がマスクをつけての観戦となっていた。そんな中でも割れんばかりの「猪木」コールを浴びて、アントニオ猪木が登場。後楽園は沸騰した。
猪木の60周年を祝うべく、ゆかりのある選手たちが次々に入場テーマに乗って登場した。MASTERSを取り仕切る武藤が「猪木会長、デビュー60年、そして喜寿おめでとうございます。世の中、コロナで非常に騒いでいる最中、このMASTERSのリングに来場ありがとうございます。皆さんも本当にありがとうございます。今この暗くなりかけているこの日本に一発喝を入れてください」、藤波が「これからも我々に元気を与えてくれるように頑張ってください」とメッセージ。蝶野、藤原、越中、AKIRAらも祝福の言葉をかけていく。
スペシャルゲストたちも花を添えた。木村健悟は「猪木さん、喜寿そして60周年おめでとうございます。これから私たちのためにも1日でも長く元気に頑張っていただきたいと思います」と語りかけると、大声援を浴びて前田日明も登場。「猪木さん、今回は喜寿の年で、ブラジルから日本に戻ってきて60年。自分たちから見ると、猪木さんは本当に50代、60代、70代…選手が終わっても、毎年毎年各年代ごとに自分たち後輩・弟子を驚かせてくれます。これからも、この先、もう1回、もう2回、もう3回…もっと驚かせてほしいですね。本当に期待しております」と師匠を激励した。
久々に公の場に姿をみせた木戸修は「今日はおめでとうございます。身体に気をつけて元気でいてください」と言葉少なに師匠を思いやると、最後に長州力がリングイン。「会長、おめでとうございます。今日はですね、武藤と蝶野がぜひ闘魂ビンタを入れてくださいと。僕から伝えてくださいと言われたもんで、先輩としてよろしくお願いします」とムチャぶりすると、武藤と蝶野も思わず苦笑いした。
弟子たちに囲まれて、猪木があいさつ。「元気ですか!」と恒例の雄叫びから語り始めると、「元気があれば何でもできる…。元気を売り物にしてきましたけど、ちょっと元気を売り物にしたのは失敗だったなと。今日は皆さんが集まってくれて、ここに来る途中、いろんなことを考えました。武藤のヤツ、俺を乗せやがったなって。60周年なんて俺は関係ねえのにな」と続けて笑いを誘い、「でも、こうやって会場に入ってみて、皆さんの熱い声援をもらったら、やっぱりプロレスのリングというか、人前に出ることは素晴らしいことだと思います」と場内を見渡した。
そして、「さっき、『前田日明からまだまだ世間を騒がしてください』と一言ありましたけど、ちょっとだけ…」と前置きしつつ、現在力を入れているプラズマについて触れ、「去年は2ヵ月半、病院に入院してまして、どうしようかなと思っている時にこれに出会いました。新たに燃える闘魂に火が点きましたんでね」と新たな夢を口にした。
ここで長州が武藤を羽交い締めにして、言葉通りに闘魂ビンタを要請。猪木は「やっぱり世の中に一番必要なのはビンタかもしれない」とビンタの構えに。長州が「会長、思いっきりお願いします」と呼びかけると、猪木はこん身のビンタで武藤に闘魂を注入。さらに、嫌がる蝶野にも叩き込んだ。
続いて、「長州」コールが巻き起こると、武藤と蝶野がお返しとばかりに先輩を“連行”。猪木は「前にも言ったけど、ひと叩き100万なんだよ」と苦笑しつつ、「日本を元気にしようという思いを込めて…いくぞ!」と絶叫して長州にも闘魂を注入した。さらに、「前田」コールも発生すると、「お前も変わったな」と驚きつつ、前田にも力強いビンタをお見舞いして場内を沸かした。
最後はもちろん「ダー!」。猪木は「プロレスが戦後、力道山という師匠が登場して、あの敗戦の中で元気をいただいた。我々もその中の1人で、プロレスの道に入ることになりましたが、これからもプロレスがもっともっと世界に向けて発信して、そして世界の人たちに勇気と希望を与えてほしい」と弟子たちに語りかけ、「…という思いを込めまして、例のヤツでいいのかな?」と確認。後楽園ホールが沸騰すると、観客や愛弟子たちともに「行くぞっ! 1、2、3、ダー!」の大合唱で記念セレモニーを締めくくった。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、イベント中止が相次ぐ非常時での興行開催となったが、闘魂ビンタを食らった武藤は「本当に嬉しいというか、なんか知らないけど、感激したというか。ここ2、3日ね、追い詰められていたからさ。その中で、最後に猪木さんにビンタもらって、嬉しかったですわ」と感慨深げ。イベント開催を前に悩みに悩んだことを告白しつつも、来場した観客に感謝し、「今の時点は本当にやってよかったと思ってます。今の時点はね」と振り返っていた。
【武藤の話】
――先ほどセレモニーは丸投げと言っていたが、どうだった?▼武藤「本当に丸投げだよ。ただ、本当に嬉しいというか、なんか知らないけど、感激したというか。ここ2、3日ね、追い詰められていたからさ。その中で、最後に猪木さんにビンタもらって、嬉しかったですわ」
――長州さんからけしかけられた形だったが?
▼武藤「あの辺は本当の投げっぱなしだからね。ある意味、長州さんにも感謝してますよ。長州さんだけじゃなく、藤原さん、藤波さんも、みんな頼もしい本当に立派な先輩方ですよ」
――あれだけの面子が集まったリング上を見てど感じた?
▼武藤「今回ね、もしMASTERSをやっておかなかったら、次はたぶん1人欠けるかもしれねえからさ。だから必死でやったんだよ。本当は坂口(征二)さんも来る予定もあったんですけど、まあまあ、坂口さんはきっと断腸の思いで来れなかったんですけど」
――猪木さんのメッセージはどう聞いていた?
▼武藤「ゴミを無くすプラズマだっけな。やっぱり未だに夢を追いかけているあの精神というか。偉大な師匠のその背中は本当に勉強になりますよ」
――今回、セレモニーをやった甲斐があった?
▼武藤「そうっすね。だって、たぶん今のこの現時点だから、これだけの人が集まってくれたと思う。本当にMASTERSって次はどうなるかわからないから。そういう意味では感無量ですよ。今日無事に終わることができて」
――コロナ問題もある中で開催したことにいろいろ迷いもあったと思うが?
▼武藤「今の時点は、まあまあ、自己満足の中でよかったって思っているけど、世間のあれっていうのはあとから来ることであって。それに対してもう対応していくしかないですよね」
――多少キャンセルはあったと思うが?
▼武藤「多少じゃないよ。たくさんあったよ」
――それでもこれだけお客さんが来てくれた
▼武藤「ありがたいことですね」
――武藤選手にとってアントニオ猪木はどういう存在?
▼武藤「偉大な人ですね。まあ、師匠ですよ。真似できないけどね。真似はできないけど、参考にしながら、武藤流にアレンジしながら追いかけていきたいと思いますね」
――ここ2、3日追い詰められていたというのはコロナの問題で?
▼武藤「そうですね」
――大会中止や自粛を他団体は行っているが、そういうものも頭をよぎった?
▼武藤「もちろん思いましたよ。ただ、もうジェフ(スーパーJ)は来日しているし、今さらどうしていいものなのか、自分の中でまとまらなかったというか。もうやるしかないな、なんて。今の時点は本当にやってよかったと思ってます。今の時点はね」
魔性のリングと言うべきか。やはりリング上での再会は、やる側も見る側も特別。藤波辰爾&長州力が捕獲した前田日明に闘魂ビンタ!! 前田とはいろいろあった猪木「お前も変わったな」。一つひとつのシーンがたまらない。
猪木の「前にも言ったけど、ひと叩き100万なんだよ」だったり、武藤の「次は1人欠けるかもしれねえから」だったりは、シュートな発言。コロナ禍中のマスターズに猪木初登場で“金曜の夜”が蘇った。
武藤は「坂口(征二)さんはきっと断腸の思いで来れなかったんですけど」とも。新日本プロレス天山広吉&小島聡が出場回避となったが、新日本筋の坂口にも待ったがかかったのだろうか。
セレモニー中こそ椅子に腰かけたものの、きっちり歩行でリングインし、セレモニー終盤を立ちでこなした猪木。一方で、猪木のマイクの呂律の廻らなさは気になった。縁起の悪いことを言うつもりはないが、誰もが“いま元気な猪木”に感謝。勢揃いすることに、とてつもない意味がある。
大会をやる・やらないについては、武藤から猪木に相談もしていたんだという。
・ 【マスターズ】武藤&蝶野が自粛ムードのマット界に一石 このままでは業界が崩壊する(東スポWeb) – Yahoo!ニュース
果たしてこれでいいのか? 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、プロレス各団体が興行中止などの対応を迫られるなか、武藤敬司(57)がプロデュースする「プロレスリング・マスターズ」は後楽園ホール大会(28日)を予定通り開催。武藤は大会強行の裏にあった葛藤と信念を明かした。またセコンドとして来場した“黒いカリスマ”蝶野正洋(56)も、プロレス界の置かれた現状を踏まえた上で、一律自粛ムードに疑問符をつけた。
新型コロナウイルスを巡っては政府が3月中旬まで大規模イベントの自粛を要請し、新日本プロレスが11大会の中止を決めるなど各団体が対応に追われている。マスターズは会場内で感染防止対策を施し、チケットの返金も受けつけたうえで開催。スポーツ界全体で自粛ムードが広まっているだけに、賛否が巻き起こることは武藤も覚悟していたという。
試合後に本紙の取材に応じ「ぶっちゃけ東スポだから言うけど、これだけ自粛やってたら、コロナで死ぬ人よりも経済が回らなくて自殺しちゃう人のほうが多くなっちゃうよ。まさしくエンターテインメントなんて一番最初に首絞められちゃったからさ」と現状への危機感を吐露した。
もちろん観客の安全があってこその興行とした上で「今回は俺の判断に投げられたからやることにしたんだけど…。次も同じ状況に追い込まれたら、どう判断するのかは分からない。それくらい際どい判断だった」という。大会前には来場が決定していた師匠のアントニオ猪木氏(77)にも相談。「どっちでもいい。お前が決めなさい」と託され、「迷わず行けよ」の精神で開催した。当日までに約300件のキャンセルもあったというが「今の時点では、やってよかったと思いますよ」と振り返った。
蝶野も大会開催を「英断」と表現した。政府の対応とプロレス界の現状を踏まえると「全中止」は現実的ではないと考えるからだ。「大手の新日本プロレスなんかは体力がある。ただ他のところは体力がなくなった時…職を失って、家族を食わせていけない。そういう時どうするのかは考えてあげないと」
自粛要請の期間は約2週間だが、その後にすぐ再開できる保証もない。「無観客試合とか、そういう処置があってもとは思う。ただそれではどうにもならない団体があるというか、そっちのほうがほとんどだと思う」。中止一辺倒では業界が崩壊すると警鐘を鳴らす。出口の見えないコロナ禍にレジェンド2人の投じた一石は、マット界にどういった広がりを見せるのか――。
正解は一生わからないが、プロデューサーの武藤が決めたというのが大事なこと。とはいえ、この件が気が気ではなかっただろう。
余波によりセレモニーが武藤からゲスト勢に丸投げされ、長州が現場監督のごとく闘魂ビンタ劇場を誘発し、前田が力強い一発を食らう。これらのシーンは聖なる一回性だったのだ。