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一生続く前田日明のロマンチック KAMINOGE&教養としてのプロレス

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 読者のみなさんにあたっては、年始月でバタバタという感じ? それともステイホームでゆったり? ボクの方はちょっとバタバタなのだが、このエントリーは読書タイムの参考まで。

2021年1月5日発売 KAMINOGE vol.109

 こちら1月号の方です、紹介時期が変でスミマセン。読まずにいたものに手をつけ始めました。


2021年1月5日発売! 表紙および巻頭ロングインタビューはお笑い芸人のニューヨークのお二人。嶋佐和也さんと屋敷裕政さんにお笑いについて深く、そしてパーソナリティについてもお聞きしました。他、前田日明、朴光哲、工藤めぐみ、玉袋筋太郎、世志琥、Sareee、菅原美優のロングインタビュー。連載陣は、五木田智央、鈴木みのる、バッファロー吾郎A、プチ鹿島、斎藤文彦、兵庫慎司、古泉智浩、坂本一弘、椎名基樹、マッスル坂井、ターザン山本!、大井洋一、伊藤健一(敬称略)
KAMINOGE vol.109 | 株式会社 玄文社

 扉の見出しなので引用をお許しいただきたい。前田日明がインタビューに応じている。

「自分のことは好きとか嫌いというよりも、うまく付き合っていくしかしょうがないじゃん。騙し騙しでも付き合っていこうって達観してるくらいだよ。昔は自問自答とかしていたけどさ、いくら注意してもやることはやっちゃうんですよ」

 井上崇宏編集長が他誌にはない前田を相変わらず引き出しているわけで、見出しから期待される以上のインタビューとなっている。ファンもアンチも多い前田であるが、言動の背景をまた理解できる必読テキストがここにあり。それでいて、自分に当てはめてアレコレ考えることもできる。“宮本武蔵と会いました”含めて確認を。

2021年2月5日発売 KAMINOGE vol.110

 次号はこちら。


2021年2月5日発売! 平本蓮 浜崎朱加×山本美憂  斎藤文彦×プチ鹿島 鈴木みのるのふたり言 玉袋筋太郎「マッハ文朱」変態座談会 武藤敬司×小橋建太 所英男 西村知美
KAMINOGE vol.110 | 株式会社 玄文社

2016年7月14日発売 教養としてのプロレス(双葉文庫)

 もともと新書版で発売されたのだが、今から買うならこの追加原稿ありの文庫版がオススメ。


2016年7月14日発売! プチ鹿島 (著)「プロレスを見ることは、生きる知恵を学ぶことである」―。著者が30年以上に及ぶプロレス観戦から学びとった人生を歩むための教養を、余すところなく披瀝。今もっとも注目すべき文系芸人による初の新書登場。90年代黄金期の週刊プロレスや、I編集長時代の週刊ファイトなどの“活字プロレス”を存分に浴びた著者による、“プロレス脳”を開花させるための超実践的思想書。文庫版のみ収録の対談など含めて、待望の文庫化!

 前後含めてリンク先には長文あり(TBSラジオ『荻上チキ Session22』に出演)。

プチ鹿島『教養としてのプロレス』プロレス視点で全てを読み解く方法

(プチ鹿島)そもそも僕がいちばんこの本の肝になっているのが、僕が子どもの頃。1980年代、10才ぐらいからプロレスを見だしたんですね。で、その時っていうのはゴールデンタイムで放送されていたんで。20%ぐらい視聴率を取っていたんです。ということは逆に言えば、プロレスに興味がない一般の大人もプロレスと触れる機会が多かったんですね。で、『プロレスが好きだ』なんて言うと、『あんなもん、八百長だろ』とか、『あんなもん、ショーだろ』ってバサッと否定されるんですよ。で、僕それに対してものすごくコンプレックスを抱えていて。二十歳過ぎるまで、プロレスが好きっていうのは僕、黙っていたんです。

(南部広美)ええっ!?

(プチ鹿島)隠れキリシタン的な。本当に。だからあの、自分の中でもコンプレックスがあったんです。こんなものを好きでいいんだろうか?っていう。

(荻上チキ)ああ、好きだからこそ、否定されることが嫌だから。悶々とする。

(プチ鹿島)そうです。で、実際自分でもプロレスの胡散臭さとか、いかがわしさっていうのは十分わかっていて。で、自分の中でも疑心暗鬼、半信半疑なんですけども。それはやっぱり普通の大人にバッサリ切られると傷つくわけですね。でも、大人には傷つけられるんだけど、いざテレビの前で猪木を見ると、ものすごく、疑って見る時に限って、あやしい色気が発生するわけですよね。ひきつけられちゃうんですね。

(荻上チキ)色気。

(プチ鹿島)で、そこで考えたのが、もうプロレスが八百長とか真剣勝負とか、なにが真実か?とか、それはもう関係ないんだと。もう半信半疑でいいじゃないかと僕は思ったんです。半信半疑という気持ちでものごとを見たら、いちばんワクワクドキドキできるわけですよ。たとえばプロレスはもう絶対真剣勝負だ!っていう。そっちだけの、真に固まっていたら、それはそれで頭が硬直しちゃうし。プロレスなんて八百長だしショーだけど、これはあえて楽しむんだよみたいな、そこまでなんて言うのかな?型を崩しちゃうとやっぱり味気ない。パサパサになるんですよ。

(荻上チキ)はいはい。

(プチ鹿島)それよりは、『これ、一体どういう裏があるの?』とか。『面白いな』とか疑いつつ、半分信じて半分疑うポジションだと、こんなに面白いものはないっていうのを僕は自覚したわけですよ。それをものごとに、プロレスだけじゃなく、たとえばオヤジジャーナルですよね。東スポとかいろんなものを読み比べて、『これ芸能人スキャンダル書いてあるけど、どこまで本当なんだろうか?』とか。そういう読み比べをし始めたのが、全部応用できたのが半信半疑というスタイルですね。

(荻上チキ)やっぱりその、たとえば載る芸能ニュースもね、リークとかされたりとかっていうケースとか。あるいは、あるスキャンダルが発覚した時に、その写真をあえて他のスキャンダルを渡すことでそっちを報じないでくれっていうようなやりとりがあったりとか。そういったことって、どこにもやっぱり通じるものだったりしますよね。

(プチ鹿島)そうですよね。だから半信半疑を楽しむっていうのは、イコールグレーゾーンにいるっていうことなんですよ。イエスかノーか、いまなんか特にtwitterとかあるから。特にイエスかノーか、二項対立しかないですけど。このグレーゾーンにいると、意外とこう、自分の中で熟成してゆっくり考えて。これはどういうことなんだろう?っていう。『いや、でもな、猪木を信じよう』とか。『猪木、でも信じられないな』とか。そういう彷徨いつつ、でもグレーゾーンにいた方が、ものごとを見る方がちょっとワクワクするっていう。で、これ1995年にオウム真理教事件、地下鉄サリン事件っていうのがあってね。

(荻上チキ)はい。ありました。

(プチ鹿島)僕、当時25才で。ちょっと上の世代だったんですよね。僕より上の世代の人たちだったんですけど、だいたいまあ若者ですよね。あれを見て、僕本当に思ったのが、彼らはやっぱりプロレス心がないんだなと思ったんですよ。というのは、自分が信じるものをなんで世の中はわかってくれないんだ?ってこれ、僕がまさしく感じた、昭和から感じたプロレスファンの気持ちと同じなんですよ。で、そういう人って暴走しちゃうとどういうことになっちゃうか?っていうと、自分以外は全てバカっていう。これをわかってくれない世の中は、自分以外全部バカ。

(荻上チキ)ああ。

(プチ鹿島)最初は純粋な気持ちで必死に真面目に応援してるんだけど。信じてるんだけど。それを世の中がわかってくれないと、自分以外は全てバカってすごい傲慢に豹変するんですよね。

(荻上チキ)わかっている側とわかっていない側の二者しかいない。

(プチ鹿島)極端から極端に行っちゃうんです。グレーゾーンがないと。で、僕はやっぱりあの事件を見た時、『ああ、半信半疑の真ん中に立つ気持ちって大事だな』と思ったんです。たぶん、最初からオウムの信者だって、やっぱりこれは素晴らしいものだ!って。たぶらかされたにしてもですよ、思ったに違いないんです。でもそれがだんだんこう、なんで世間はわかってくれないんだ!?っていうのが突き詰めていくと、極端から極端に走ると、傲慢になっちゃうっていうのは、それは僕、プロレスで本当に味わっていたんで。なんでプロレス、猪木のあれをわかってくれないんだ!?って。世間はバカじゃないか?って。で、そういう時に登場したのが、UWFっていう新しい団体なんですね。

(荻上チキ)おお!

(プチ鹿島)猪木さんの弟子筋がやっている。たとえば前田日明さんとか。彼らがやったことは何か?って、いままでのいかがわしいプロレスっていうのを全部否定しますと。ロープに振っても返ってきません。キックと関節技、いわゆるいまの総合格闘技の原型なんですけど。そういう格闘スタイルをやりますって。

(荻上チキ)リアルだよと。

(プチ鹿島)だから僕は救われたわけですよ。それまで自問自答していたわけです。こんなもん好きでいいのか?って。でもなんかやっぱりこういういかがわしいもの、好きだなって思いつつ、プロレスの中で、やっぱり革新的な団体が出てきたんですね。それで僕も当時10代、二十歳ぐらいでしたから。そっちに流れたわけですよ。だから自分の中である意味、学生運動だったんですね。その時はもう学生運動なんてなかったですけど。で、この理想を追い求めたんです。要は頭でっかちのあれで。そしたらそれが分裂してしまうわけですよね。なんでこんな志の高い理想っていうのは、全て分裂してしまうんだろう?頓挫してしまうんだろう?っていうのを、僕はプロレスで散々見てきたんで。

(荻上チキ)ええ。

(プチ鹿島)だからその後、オウム真理教の事件が起きた時とか、『ああ、やってること、同じだな』って。で、僕は少なくとも挫折を覚えたし。で、彼らはやっぱり挫折を知らなかったと思うんですよ。ものすごくエリートの理数系の大学とかを出たわけですから。それでなんで自分たちのことをわかってくれないんだ!?この志をわかってくれないんだ!?っていう、あの挫折のない感じがね、『あ、プロレスを見てないからこうなったんだな』って、僕は本当に真面目に思ったんです。

(荻上チキ)それはいい考えですね。

(プチ鹿島)だから半信半疑の大切さを学んだんですね。グレーゾーンっていう。

 KAMINOGE連載分を含むプチ鹿島氏の執筆集。発売から時間経っているが、色褪せない名著となっている。個人的に、こういうコロナ禍でのプロレスの在り方をいろいろ考えるのだが、そもそもプロレスって何だったっけということを考えることを助けてくれる。「生きる知恵」なんて言うとうっとうしく感じる人もいるかもだが、読むとむしろグイグイ引き込まれる。

 多かれ少なかれ、上記番組引用のような構えに自力でたどり着けているプロレスファンは多い。あえて「プロレスは真剣勝負だ」と言うとビギナーファン支持が得られるのかもなのだが、近くでそう話していた人が根拠らしきものをいろいろ探して「展開予想」していたことがあって驚いた。決まっている・決まっていない、どっちと思っているのだろう。そうじゃない、グレーゾーンの中にプロレスラーとしての主張・生き様を見つけていくのがプロレスの楽しみ方なんじゃないかと、まさにボクは思うので。

 ああそうだよなァという共感多数、かつ気づきを与えてくれる本なので、いつかカクトウログ配信でも取り上げたいと思っています。騙されたと思って読んでみて。


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