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書評

プロレス熱写時代(大川昇著)/そのときレスラーとメディアは戦友だった

書評

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 光栄なことに大川昇カメラマンと懇意にさせていただいている。元『週刊ゴング』であり、これまで何冊もの写真集に携わってきた。2021年には初の著書『レジェンド』によって外国人レスラーが綴られる。好評だった著書の第2弾は、黄金時代の舞台裏を綴った「日本人編」。

プロレス熱写時代~プロレスカメラマンが撮った日本プロレス黄金期~

出版社 ‏ : ‎ 彩図社
発売日 ‏ : ‎ 2023/9/27
単行本 ‏ : ‎ 352ページ

[内容]
ジャイアント馬場、アントニオ猪木、長州力、藤波辰爾、天龍源一郎、闘魂三銃士、プロレス四天王、ユニバーサル、みちのくプロレス、ハヤブサ、……その熱い闘いをリングサイドで撮影してきたプロレスカメラマン・大川昇が、秘蔵写真ととっておきのエピソードでつづる日本プロレス黄金期。
プロレスカメラマンの楽しさを教えてもらったジャパニーズ・ルチャ、特別な縁を感じたメキシコでの出会い、引退試合で見せた素顔、レジェンドたちの知られざる逸話、そして未来のレジェンドたち……。「ブッチャー・フィエスタ~血祭り2010~」など数々の大会を一緒に手がけた盟友・NOSAWA論外との対談、さらに伝説の「天龍殴打事件」の真相が語られる鈴木みのるとの対談の二編も収録! 「あとがき」は『週刊ゴング』の元編集長のGK金沢が執筆! 本書を読めば、プロレスに夢中になったあの時代が甦る!

[目次]
第一章 我が青春のジャパニーズ・ルチャ

ユニバーサル・レスリング連盟
みちのくプロレス
ザ・グレート・サスケ
4代目タイガーマスク
スペル・デルフィン
フジタ〝Jr〟ハヤト

第二章 メキシコに渡ったジャパニーズレスラー

ウルティモ・ドラゴン
グラン浜田
ハヤブサ
邪道・外道
獅龍(カズ・ハヤシ)
BUSHI
磁雷矢
ザ・グレート・カブキ

【特別対談その1】NOSAWA論外×大川昇

第三章 格闘写真館
『週刊ゴング』表紙物語

第四章 去る男たちの素顔

天龍源一郎
佐々木健介
小橋建太
武藤敬司

第五章 レジェンドたちの肖像

ジャイアント馬場&アントニオ猪木
長州力
藤波辰爾
初代タイガーマスク
前田日明
獣神サンダー・ライガー
藤原喜明
蝶野正洋
スーパー・ストロング・マシン
佐野直喜(佐野巧真)

第六章 未来のレジェンドたち

永田裕志
天山広吉
棚橋弘至&中邑真輔
内藤哲也
オカダ・カズチカ
葛西純

【特別対談その2】鈴木みのる×大川昇

あとがき(元『週刊ゴング』編集長 金沢克彦

[著者略歴]
大川昇(おおかわ・のぼる)
1967年、東京都出身。東京写真専門学校を中退し、『週刊ファイト』へ入社。その後、『週刊ゴング』写真部で8年間、カメラマンとして活動。1997年10月よりフリーとなり、国内のプロレスだけでなく、年に3、4度はメキシコへ行き、ルチャ・リブレを20年間撮り続けてきた。現在、東京・水道橋にてプロレスマスクの専門店「DEPOMART」を経営。著書に『レジェンドプロレスカメラマンが撮った80~90年代外国人レスラーの素顔』(彩図社)がある。

“プロレス運営”問われる昨今…まるでプロレスとの向き合い方を問いかけるように

 2008年12月、メキシコ遠征中のBUSHIと大川さんをNOSAWA論外がつなげるくだりがある。論外の言葉が「よかったらBUSHIの面倒を見てやってもらえませんか?」だった。この場合の「面倒を見る」の意味は「僕の店(大川さんのデポマート)でBUSHI選手のマスクを取り扱う」とされ、BUSHIもまた食事の席で「マスクマンになった以上は、デポマートさんにマスクを並べてもらいたい」と口にしたのだという。マスクマンとしての地位を確立したいBUSHIが大川さんと絆を深めていったことが、読み進めるとわかる。

 とすれば「マスクを取り扱う」にはとどまらないのかなとも思う。なんなら「写真を撮る」だけでもない。本来の「面倒を見る」は「世話をする」ということかもしれないが、BUSHIに対する大川さんのスタンスは、最初は様子見でもあった。あとがきで金沢克彦さんが「戦友」という言い方をしているが、『プロレス熱写時代』を読了したいまは、プロレスラーとメディアが「戦友になる」だったのではないかという思いに駆られた。

(左・金沢さん、右・大川さん/カクトウログ撮影)

 金沢さんは「彼が異例と思えるほど多くの選手たちとの絆を築いてきた」とも評している。ちょっとやそっとでは離れない人間関係だ。たいていの場合はお互いの“素”をぶつけあえば、関係なんて始まりっこない。だけれども、この本には“素”をぶつけあったところから始まったプロレスラーと大川さんの関係が列挙されている。

 戦友としての絆がどうもたらされたか。それは、プロレス黄金期の舞台裏とともに読みごたえがある。マスコミと慣れあうことのない長州力、鈴木みのる、論外らとの各種エピソードもたまらないものがある。

 そんな大川さんがウルティモ・ドラゴンにオカダ・カズチカについて聞いたことがあるのだという。なぜ、多くの闘龍門選手がキャラ付けされデビューしていく中で“岡田かずちか”だけが黒タイツ・黒シューズでのデビューだったのか。ウルティモはなんと「将来は間違いなく新日本プロレスに行くだろうと思ったので」と答えたというのだ。この言葉だけではないウルティモ校長の見立ては、ぜひ本書内で確認していただきたい。

 絆が踏み込んだ会話を生み、撮影写真・取材記事につながっていく。そして大川さんは『週刊ゴング』廃刊後に一時期、プロレスの大会を手がけた。カメラマンが大会を手がけるなんてとんでもないことのようにも思うが、著書で書かれたことを追っていくとなんら不自然さがない。むしろ落ち着くところに落ち着いた印象さえ持つ。絆があって興行を預けられるというものだ。

 著書から離れるが、2021年3月3日、スターダムが日本武道館に初進出した。この際に、「ジュリアvs.中野たむ」ワンダー戦がメインとなるべき理由をボクに熱弁してくださったことがあった。大川さんはロッシー小川EPと意見交換できる立場にある。通例のワールド戦ではなくワンダー戦がメインと小川EPが判断したのは、おそらく大川さんの主張が影響したのではないかとボクは勝手に見ている。

 それほどまでにレスラーとの絆を重ねた男の見立ては重い。ここのところ“プロレス運営”が問われているが、プロレスとはプロレスラーの生き様が絶対的ベースとなるもの。著書からは、まるでプロレスとの向き合い方を問いかけられているかのようだった。

 著書は「外国人編」「日本人編」と続いたが、三部作とする願望があるのだという。三部はおそらく、現在向き合う時間が多い「女子編」なのではないかとボクは想像している。

 あとがきは金沢さんによって綴られ、2017年の脳腫瘍摘出手術で40日間の入院を伴ったこと、左耳が聞こえなくなったことが明かされている。負けず嫌いな金沢さんは面会を謝絶。その金沢さんのラインに大川さんは朝のウォーキングで撮影した写真を毎日のように送り続ける。金沢さんは励まされた。

 再び著書とは離れるが、今年の10月4日、東京ドームでの巨人戦(原監督引退セレモニーの日)にボクは金沢さんと大川さんをお誘いした。ボクの左に2人が座る。最初は大川さんが左、金沢さんが右に座る。それを大川さんが声をかけて、金沢さんと左右入れ替わる。

 「何をやっているんだろう」と思ったが、2人が会話しているところをみて腑に落ちた。大川さんは金沢さんの右耳側に座ったのだ。大川さんが金沢さんの左耳を担っているようにも思えた。これが大川さんなのだ。

 それを見てから、ボクも必ず金沢さんの右に寄り添って会話をするようにしている。ボクはプロレス界に影響を与えられることは何もないのだが、金沢さん大川さんのスピリットをいつかは1%くらいは内包したサイトを担いたいと思う。

関連コラム

36年以上のプロレスカメラマン人生を通し、
国内外で出会い、交流をもった多くの名レスラーたちとの秘話。
それらがベストショットとともに掲載されている。
おそらく大川カメラマンと他のカメラマンの方々との決定的な違いは、
彼が異例と思えるほど多くの選手たちとの絆を築いてきたことだろう。
そこに関しては、記者たちを凌駕している部分がある。
プロレス熱写時代(9/27)発売! | 金沢克彦オフィシャルブログ「プロレス留年生 ときめいたら不整脈!?」Powered by Ameba

ちなみに著書第1弾『レジェンド』の金沢さん評。こちらに大幅加筆される格好で第2弾のあとがきが作成されている。
写真は嘘をつかない | 金沢克彦オフィシャルブログ「プロレス留年生 ときめいたら不整脈!?」Powered by Ameba

鈴木健.txtさん。プロレス本にありがちな事件性に特化した出来事の検証や裏話的なものはなく、マスコミとレスラーの間で紡がれるハートウォーミングな関係性を飾り気なく綴っているのは、大川さん自身のレスラーと向き合う上での姿勢によるものなのだろう。これほど膨大な情報が映像やテキストによってとめどなく流布される時代にあっても、初めて知るエピソードがいくつもあった。それもカメラマン目線だとライターが書くものとは違った角度で描かれ、新鮮なのだ。
写真とともにプロレスカメラマンの言葉がもっと伝われば――大川昇・著『プロレス熱写時代』 | KEN筆.txt

ジャスト日本さん。この本は数多くの日本人プロレスラーたちのエピソードが満載です。鈴木みのる選手、NOSAWA論外さんとの対談も必見なので、もっとプロレスが好きになる一冊として自信を持っておすすめします! 金沢さんがあとがきで「写真は嘘をつかない」と綴っていますが、大川さんの写真からは「写真はすべてを物語る」という境地を感じました。またプロの妙技による熱写とは対象的に文章は爽やかで、二面性があるのも著者として大川さんの魅力ではないでしょうか。
写真はすべてを物語る〜『プロレス熱写時代』おすすめポイント10コ〜


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