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書評

ジュリア自叙伝My Dream書評 すべての開示は未来の女子プロレスのために

書評

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 3月末をもってスターダムを退団し、5月にマリーゴールド旗揚げに参加、9月に海外メジャーWWE移籍となったジュリア。置き土産のように書かれ8月に発売となった自叙伝『My Dream』について取り上げさせていただく。これを読まなければ2024年は終われない。

ジュリア自叙伝My Dream~私は、プロレスラー。夢のために、生きている

My Dream ジュリア 自叙伝 単行本(ソフトカバー) – 2024/8/23 ジュリア (著)

私は、プロレスラー。夢のために、生きている。
人気・実力ともに女子プロレス最大のスターが初めて単行本を書き下ろし!
波乱万丈の生い立ちからプロデビュー、木村花の死、髪切りマッチ、覚悟のスターダム退団とマリーゴールド参戦の経緯、そして海外メジャー挑戦へ……
ひとつの枠に収まりきらないプロレスラー・ジュリアの、これまでとこれから。

◆目次◆
序章 夢
第1章 My History
第2章 始動
第3章 頂点
終章 旅立ち

◆著者略歴◆
ジュリア
1994年2月21日、英国ロンドン出身。2017年10月、アイスリボンでプロデビュー戦。2019年10月にスターダム移籍後はワンダー・オブ・スターダム、5★STAR GP 2022、ワールド・オブ・スターダム、STRONG女子など各王座戴冠。2020年には女子プロレス大賞を受賞し、名実ともに女子プロレス界のエースとなる。2024年春にスターダム退団、新団体マリーゴールドに参加。得意技はグロリアスドライバー、ノーザンライトボム、ヴァーミリオン。

1年前、「自分は結構、意見をするタイプの人間なんですよ」と口にしていたジュリア

 格闘(カクトウ)を記録(ログ)で楽しむことを目指している当サイト。そんな中で、近年最大のインパクトを放ち、当サイトの姿勢を広めたのは、ジュリアの言葉のログとなる。その中の一節。

 ジュリア「自分は結構、意見をするタイプの人間なんですよ。だからそれが原因で争いごとだったりとか、今まで生きてきた中で、揉めるとかっていうことが、プロレスラーになる前から、友達だとか家族だとか仕事だとか学校だとか、本当なんか色んな場面で…『それは違くない?』って思ったこと自分は結構はっきり言うタイプの人間なんです。日本人ぽくないのかもしれない。普通は言いづらいことをなかなか言い出せないっていうのが多いんです。特に女子とか、スタッフさんとほとんど男性のスタッフさんで。みんな言いたくてもなかなか言い出せないみたいなことがなんかたくさんあったと思ってて」
ジュリア「フツーの試合をさせてくれ、頼む」 スターダムを取り戻すために

 個人的には、このインタビュー時に「プロレスラーになる前から、友達だとか家族だとか仕事だとか学校だとか、色んな場面で自分は結構はっきり言うタイプの人間」とされたジュリアの半生に興味を持った。発刊の相談を受けた金沢克彦氏はジュリアに「プロレスファンより、むしろ一般の人に読んでもらいたいんです」とも言われたのだという。

 と同時に「特に女子とか、スタッフさんとほとんど男性のスタッフさんで。みんな言いたくてもなかなか言い出せないみたいなことがなんかたくさんあったと思ってて」などのくだりで、バックステージでの闘いの複雑さも感じざるを得なかった。こちらは“プロレス者”として確認しなければいけない領域となる。

 後者はのちほど触れるとして、前者の“むしろ一般の人に読んでもらいたい”点について。

 ジュリアはけっして“いい子”ではなく問題児だった。喧嘩もする。それが両親の離婚を機に、母が手がけるレストランを手伝うことになった。そこで自身の見られ方に気づき、認められるまで努力をすることを覚える。

 誰しもが「喧嘩もする」ところと「努力をする」ところの両方を大小あれ持ち合わせているに違いない。それがジュリアの場合、ふんだんなエピソードとともに波乱万丈に展開するから面白い。読み進めると、ひとつひとつに「そうだよなぁ」という共感、「自分には無理かも」という感嘆を伴う。

 そしてこの「喧嘩もする」と「努力をする」のブレンドがジュリアなんだと気がつく。あくまでも建設的なものとしての「意見をするタイプの人間」ジュリアが出来上がっていく。どっちつかずではなく、両方に全力でもいいじゃないか。この過程をぜひ、一般の人に広く読んでいただきたい。

 そんなジュリアは、なりたいものとしてプロレスラーにたどり着いた。昨今のネットフリックス『極悪女王』ブームにより、当時の女子プロレスこそが大変な世界だったという論もある。だけれども、当時の「全日本女子プロレスか否か」という世界観とは違い、現在の女子プロの大変さはこういうところにあるのかと思わざるを得ない描写が相次いだ。

 特にアイスリボン時代は、金銭面で生活ができない事態もあった。ジュリアは本書内で「好きという気持ちだけでは到底やり抜けないほど理不尽で、大変なことも多い世界だけど、やり抜いた先には大きな喜びが待っています。それをハッキリと宣言したほうが、覚悟を持って業界に入ることができると思うんです」とした。すべての開示は、未来の女子プロレスのためでもある。

強烈すぎる答え合わせ。スターダムで嫌われ、愛され…愛ゆえにスターダムと衝突した全経緯

 バックステージでの闘いの複雑さでは、スターダム時代のことに多くが割かれている。アイスリボンからの移籍に伴うバッシングで、スターダムファンに嫌われながらの入団。だけれども徐々に認められ、ジュリアは女子プロレス大賞を手にするほどの活躍を遂げる。

 その過程で、スタッフに「今日、ジュリアはスターダムの一員になれたと思う」と声をかけられる一幕があったことが同書で明かされている。2020年6月21日、新木場大会でジュリアは最後にマイクを持った。同書内に収録はされていないが、そのときのマイクはこうだ。

 ジュリア「今日は舞華、朱里、ジュリア。世界に弾ける女たち、ドンナ・デル・モンドに新しい仲間が増えたので紹介しましょう。ジャンボプリンセス、ひめかです。今日からドンナ・デル・モンドはこの4人でスターダムを引っかき回していくから、オメエら一瞬たりとも目を離すんじゃねーぞ、わかったか? 

 この3カ月間、自粛、自粛でいろんなことがあり、みんな辛かったし苦しかったと思います。我々もそうです。でも、スターダムはここで止まっているわけにはいきません。そういういろんなものを弾きとばして、前に前に進んでいかなくちゃならないので、さっき引っかき回すって言ったけど、スターダム全員で盛りあげていくんで、諸君は楽しんで、いつも通り、いや、いつも以上に、応援のほどよろしくお願い致します。スターダムのことが好きで、好きで、たらまない諸君! アリヴェデルチ! またなー!」

 自粛期間に木村花さんが亡くなって以降、初めての興行。いつしかジュリアはユニットのみならずスターダムを背負い、このタイミングで盟友も背負っていく。

 2023年に入ると、当時の原田克彦社長らとのぶつかり合いが始まる。別ブランド興行『ショーケース』をめぐり、ジュリアが「やるならもっと真剣に考えてやってほしい」。原田社長は「もうプロレスのお客さんはある程度取り込んだから、練習のことは考えなくていいよ」「お前はな、俺のコマなんだよ!俺の言うことに従っておけばいいんだ!」。

 スターダムを愛するがゆえの衝突。こうした記述もまた、歴史は繰り返されてはならないという強い意志によるジュリアからの開示にほかならないだろう。

 この局面でジュリアはロッシー小川エグゼクティブプロデューサーと共闘するが、事態は改善されず。ここまでの流れが2023年3月までにあった。小川氏は“選手たちの方舟”としての新団体構想に着手する。スターダムへの信頼は原田体制で失墜するも、岡田太郎社長就任(2023年12月1日付)で回復着手となった。

 このギリギリのバランス(単年度ベースに限っても失墜8か月、回復着手4か月)で、スターダムからマリーゴールドへの2024年3月31日付退団は5選手。小川氏に新団体設立を当初お願いした複数のトップ選手のうち、移ったのはジュリアだけとも伝えられている。(もちろん、ジュリアは小川氏に海外進出の希望を伝えたうえで参加している)

 コロナ期間に大躍進した女子プロレスムーヴが2団体に分割したのは、ファンにとってはさびしい。とはいえ、これからの話でいえば「スターダムは本当に(選手・ファンに向き合うように)変わったのか」「マリーゴールド(退団選手の移籍先)が選手の輝ける場所になろうとしているか」を見届けていく必要がある。

 いい意味でのライバル団体関係、そしてジュリア参加の海外団体含めて、女子プロレスの盛り上がりにつながっていってほしい。その際に、これからの国内選手にもジュリアのような行動力と「意見をするタイプの人間」は欠かすことができない。これからの女子プロレスに移っていくうえで、ジュリア自叙伝『My Dream』はコロナ期間の強烈すぎる答え合わせ、コロナ明け時点の総括書ともなっている。

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