【追っかけ現地レポート】静々動々の57分47秒 ノア3・29後楽園無観客試合
新型コロナウイルス騒動で無観客マッチは珍しいものではなくなった。レスラーの声には「観客の声援がなくて闘いにくい」というもの、「画面の向こうのファンの声を感じた」というもの、両方があった。そんな中で、この29日の無観客マッチ4試合に感じたことがある。
相手を倒しにいく集中力がハンパない
バック・トゥー・ザ・ベーシック。画面越しに一挙手一投足が注目されるからこそ、盛り上げ直結のアクロバティックな攻防には寄り過ぎない。観客を意識するならば、攻めも受けも、派手さより技量を伴う技が増える。
そして、もう一つ。相手を倒しにいくことへの集中力がハンパない。
無観客試合を意識したのか、ノアの公式スタッフはいつもよりもしっかりと集音マイクを構えていた。袈裟固めに入った藤田の声はどれほど画面越しに聞こえただろうか。「ラッパだよ、勉強しろ」「エスケープするんじゃないだろうな、おい」「わかるか、これが袈裟固めって言うんだ」。
ハンパない集中力をキープさせるのは、どんな展開になろうとも「野次が聞こえない」ということもある。試合前半のロング視殺戦も、グラウンドでの公開かわいがりも、リミッターを外した状態だったのだ!!
乗り切った潮崎に、さらに藤田は会場を縦横無尽に使った乱闘を見舞う。
勝負あった。いや・・・これで藤田の勝利というわけではなく、これを受け止めた結果、死んでいたら潮崎の負け、生きていたら潮崎は勝ちという“勝負あった”である。かくして、藤田のラッシュを耐え抜いた潮崎は豪腕ラリアットで勝利した。どんなスタイルの相手をも受け止め、ノアとして立ちはだかる姿を見せた潮崎の「I am NOAH!」の説得力よ!
3・8横浜文化体育館大会が予定通り行われていたら!? 3・29後楽園が有観客マッチだったら!? 歴史にIFはないものだが、有観客版「潮崎vs.藤田」にも興味はある。だけれども、無観客マッチだからこその「潮崎vs.藤田」に一回性の価値があった。
新型コロナウイルスによる無観客試合は苦渋の選択に違いない。だけれども、SNSでリアクションしたファンには、この試合に無観客だからこその展開を察知していた。払い戻しとなり、ノアは小さくないダメージを負った。その一方で得たものも多くあったのではなかろうか。
感染拡大の中に見えた希望。思えば、30分の視殺戦にはまったく長さを感じることがなかった。60分近い試合の中で、史上最も短く感じられたくらいだ。プロレスの可能性は無限大であり、ノアは担い手にならんとする引き出しを見せたのだ。