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アントニオ猪木

アントニオ猪木が格闘技界・政界で闘い抜く 日本人プロレスラー初の勲章

アントニオ猪木

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 16日、アントニオ猪木が従四位(じゅしい)と旭日中綬章(きょくじつちゅうじゅしょう)を受章したことがわかった。

伝達が予定されているのが「1月23日」なら、報道されたのは「1月16日」

 日本での勲章については、外国人叙勲としてザ・デストロイヤー、ミル・マスカラスが旭日双光章を受章しているが、日本のプロレスラーとしては初めて。

故アントニオ猪木(本名 : 猪木寛至)への叙位・叙勲が授与されました。生前最後の日(逝去日)にさかのぼって叙位・叙勲が授与されます。

位階、勲章につきましては、以下の通りです。

位階 従四位
勲章 旭日中綬章

(故アントニオ猪木の叙位・叙勲のお知らせ | 猪木元気工場 – INOKI GENKI FACTORY)

 公式な受章理由は明かされていないが、東スポが「日本のプロレスラーとしては初の快挙。プロレス・格闘技界やスポーツ界に残した多大な功績は誰しもが知るところだが、社会の発展にも広く貢献したことが認められた」とした。

 伝達が予定されているのは「1月23日」と各メディアが取り上げた。

 猪木さんへの叙位・叙勲の伝達は、23日に遺族を代表して実弟の猪木啓介氏が受け取る予定。猪木さんの代名詞と言っていい決めゼリフ「1、2、3、ダーッ!」にちなんで、1月23日に贈られる粋な計らいとなったが、この日はプロレス界にとっても重要な意味を持つ。猪木さんにとって生涯最大のライバルで、「BI砲」のタッグパートナーだった、故ジャイアント馬場さんの誕生日(1938年)に当たるのだ。

 馬場さんは99年1月31日に亡くなったが、日本プロレス界にとっても2大巨頭の「馬場・猪木」に勲章が贈られることは悲願でもあった。今回は猪木さんへの「死亡叙勲」となったが、「馬場さんとともに、という意味もあるのでしょう」(IGF担当者)。

(2023年1月16日 アントニオ猪木さん 日本レスラー初「従四位」「旭日中綬章」授与 伝達の1・23には特別な意味 | 東スポWEB)

 さらに猪木の宿命がそうさせたのか、報道されたのは「1月16日(ヒーローの日)」である。

ブラジル、キューバ、パキスタン、北朝鮮から勲章。猪木「日本は何もくれない」

 これまでブラジル、キューバ、パキスタン、北朝鮮から勲章を授与されてきた猪木。「日本は何もくれない」ともこぼしていたのだという。

 猪木さんのマネジメント会社「猪木元気工場(IGF)」によると、猪木さんはこれまでブラジル、キューバ、パキスタン、北朝鮮の4か国から勲章を授与されてきたという。2012年には「キューバ友好勲章」を受章。キューバ革命を指導した故フィデル・カストロ氏、ラウル・カストロ氏と親交があり、両国間の交流に貢献したことが認められた。

 猪木さんが政治活動で掲げた「スポーツを通じた平和外交」は、他国には評価されていたが、あまのじゃくな猪木さんらしく照れ隠しで「オレに勲章はいらないんだよ」などと話していたという。一方で、当時は「日本は何もくれないんだよな~」ともこぼしていたとか。そうしたことから、IGFの担当者は「今回の叙勲で、猪木会長も大変喜ばれていることでしょう」と話す。

(2023年1月16日 アントニオ猪木さん 日本レスラー初「従四位」「旭日中綬章」授与 伝達の1・23には特別な意味 | 東スポWEB)

 死後になってようやく猪木の外交が評価されるようになったが、リアルタイムでは売名などとさんざん言われたものだ。不屈のスピリットを闘いで見せ続けてきたからこそ通じる外交というものがある。

 そしてもうひとつ。外交、政界での取り組みには、プロレスやプロレスラーに対する偏見をひっくり返すという思いがあったことだろう。

昭和プロレスの対世間。突出したテレビコンテンツであったぶん八百長論の引き合いに

 いろんな場面で猪木が口にしていること。

「オレは師匠の力道山から『プロレスとは、あらゆる意味で闘いである』という”力道山イズム”を自分なりに受け継いで、”猪木イズム”の精神を貫いたと思っています。

それは、オレたちの時代には常に『プロレス八百長論』があったことが関係していて。野球の賭博や相撲の八百長が報じられるたびに、プロレスが引き合いに出されてバカにされた。それがバネになって、オレはリング上の闘いを通じてプロレスのすごさを世間に示し続けた。

後輩の藤波(辰爾[たつみ])、長州(力)、前田(日明[あきら])あたりの世代も、ある程度はその精神を受け取ってくれたと思います。ただ、こっちが期待したものとは違う部分もあった。彼らは人気を得ることにも重きを置いていたけど、オレは『プロレスの地位を社会的に高めないといけない』という使命を持って闘っていたから」

(2018年11月03日 アントニオ猪木、新日を語る!「基本、『レスラーは強くあれ』。それが『強くなくてもいい』と変わったことは、オレには理解できない」 – スポーツ – ニュース|週プレNEWS)

 《一般紙はプロレスをいっさい掲載しなかった。他のスポーツと差別され、世間も色眼鏡で見た。「すし店で“プロレスは八百長だから”と話していた客をたたき出した。そんな世間の目とも戦ってきた」》(日刊スポーツ10月2日)

 「世間」の偏見に対して怒り、エネルギーを燃やした猪木。でも一方で、猪木ほど「世間」を求め、「世間」から慕われた人間もいなかった。ここが世間の関心を渇望せずとも、自然と注目を集めた他のスーパースター、たとえば長嶋さんや王さんとは異なるところだ。そういう意味で、猪木は本当に稀有な存在であった。

(中略)

 猪木は「プロレスに市民権を」と訴え(猪木のおかげで私は「市民権」という言葉を辞書で調べた)、プロレスの強さを証明するために異種格闘技戦に乗り出した。これは「プロレス内プロレス」で王道を歩んでいるライバル・ジャイアント馬場への逆転の策だったとも言われる。ボクシングや柔道などメジャースポーツの一流選手と闘い、もし勝てば、一気に「世間」で知名度と存在感で馬場を超えることができるからだ。

 「プロレスの外」に目を向けた、言わば炎上商法の元祖だった猪木。「いつ何時誰の挑戦でも受ける」という言葉は各方面を炎上させるだけでなく、誰からも馬鹿にされない実力を示すというコンプレックスとの闘いでもあったように思う。

(2022/10/04 アントニオ猪木が「世間の目」と闘い続けた62年…「東スポ」の追悼記事を読んで、私が涙したわけ | 文春オンライン)

 プロレスそのものの対世間を猛烈に意識した猪木と、プロレス内で最高のものをつくろうとした馬場。そして猪木ファンは「猪木信者」と呼ばれ、猪木と一緒に闘った。

 テレビの普及自体をプロレスが牽引した時代さえあった。昭和プロレスは突出したテレビコンテンツであったぶん八百長論の引き合いに出された。ただ、八百長視されても揺るがない屈強なビジネススキームがあった。プロレスを長期間にわたって猪木と馬場が2軸で担い、新日本と全日本、テレビ朝日と日本テレビでシノギを削る。

 古参ファンが「昔のプロレスは世間と勝負していた」などと言うが、今のプロレスの不足というよりも時代と世間が限られた娯楽のひとつとしてプロレスを求めてもいた。日本を大きくした途上の熱き昭和にあって、猪木もテレビ局もプロレス団体も熱く対処した。もちろん猪木は間違いなく偉大であり、猪木と一緒に闘った日々も永遠である。

 平成以降もどこかで「どうやったらプロレス地上波ゴールデンが復活するのか」という思いもあったが、2022年に猪木が亡くなって改めて、おぼろげではなくはっきりと振り返ることができるようになった気がする。もうプロ野球さえほとんど地上波放送されない時代だ。プロレスは昭和プロレス時代とはまた別の方法で殻を破らなければいけない。

 ツイートにレスをつけてくださった方から、旭日中綬章は磯村尚徳さんと同じという指摘があった。平成23年春の叙勲で旭日中綬章を受章している。

 1976年に実現した猪木vs.モハメド・アリ戦。当時NHK『ニュースセンター9時』の中で磯村さんが「NHKが取り上げるまでもない茶番劇」と言い放つ。(後日談としては、2010年頃のNHK昼番組で猪木「茶番と言われました」女性キャスター「それは失礼しました」というやりとりもあった。)

 今回の受章は大小さまざまな因縁の決着であり、静かに世間に一矢報いたと言えるのかもしれない。


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