昨日の敵は今日のコズエン 心はやく震える手をもう一度だけ差し伸ばして
ゴズエン物語の舞台と化したヨコハマ。そんな中で中野が見せた闘いの意味
<第5試合/ワンダー・オブ・スターダム選手権試合>
《王者》
〇中野たむ(COSMIC ANGELS)
22分27秒 トワイライト・ドリーム
●上谷沙弥(Queen’s Quest)
《挑戦者》
※中野が2度目の防衛に成功
フェニックススプラッシュの使い手である上谷沙弥がタイタントロンを使って不死鳥を背負う。シンデレラ制覇の緑のドレスとは打って変わったムードで中野たむと対峙へ。
上谷の弱さを突きにいく・・・そう宣言していた中野だが、入場シーンは魔法をかけにいく天使そのもの。
髪をなびかせる姿にこだわりを持つ中野。さあ、セミファイナルのリングへ。
タイトルマッチセレモニーとしての記念撮影。
欠場と関連があるのだろう、白い包帯を腹部に巻いた上谷。ブリッジでの中野への対抗はキツいはず。
そんな中でもついていくのは上谷の意地か、師匠超えの意欲か。
宇宙一のスープレックス・マスターを目指す中野も崩れない。
万全ではない上谷の腹部を中野が狙う。強烈なキャメルクラッチ。
中野とつきあって浮気したら殺される。全男子が覚悟した。
流れを断ち切ろうと上谷が場外弾。
これが中野が予告していた「仕掛け」だろう。中野が強烈な張り手を連打。
上谷の目の色が変わる。
中野の土俵に乗っかったような張り手での逆襲。中野が一時的にサンドバック状態に。
中野も下がらない。師匠と弟子がここまでやり合う。
上谷がその場飛びシューティングスタープレス。
フェニックススプラッシュは中野のヒザ立てに阻止された。
第3試合後にシェイクハンドしなかったウナギと白川が中野の反撃を信じる。エプロンを全力でバンバンと叩く手拍子!!
中野がタイガースープレックスでカウント2。仕上げにかかる。
上谷のフランケンシュタイナーを返した中野はスピンキックから足技のレパートリーでつないで、、、
中野が高さ十分のトワイライトドリーム。
ワン、ツー、スリー!! 3カウント後にも、ブリッジ崩れでフィニッシュの余韻を観客と共有するのが中野流。
中野が差し出す手を、上谷は・・・寸前で握り返さず。
キッド「ねぇねぇたむちゃん、次は大江戸隊のスターライト・キッドが挑戦してあげる。真っ黒なこの姿に、真っ白のそのベルト、いまそのベルトを一番に輝かせることができるのは、この姿になった私しかいないんじゃない?」
(バックステージコメントとリング上での写真)
中野「ワンダー・オブ・スターダム、2度目の防衛に成功しました。上谷は結局シンデレラ、想像してた以上に私が知ってる上谷じゃなかったし、めっちゃ強かった。上谷はこの間の東北ツアーでケガをして欠場して、今日が復帰戦でした。会見では全然大丈夫、万全な状態と言ってたけど、どう見たってテーピングを巻いてたし、万全な状態じゃなかったと思います。でも、万全な状態の上谷だったらこのベルトは私のもとになかったかもしれない。やっぱり上谷は特別な存在だから、また白いベルトを懸けて絶対に闘いたいです。次の挑戦者も決まって、次はキッドと防衛戦をします。なかなか防衛戦ができなかったけど、どんどんたくさん防衛して、この白いベルトをスターダムの象徴のベルトにしていきたい」
「もう一つだけいいですか。ウナギと未奈がフューチャーの決勝戦をして、未奈がチャンピオンになった」
「けど2人にはやっぱりいろんな気持ちがあると思うんですけど、一番負けたくないライバルが一番近くにいてくれる、そばにいてくれる仲間だっていう存在をこれからも大切にして、コズミック・エンジェルズを一緒にやっていってほしいなと思ってます」
(バックステージつづき)
――闘ってみて上谷のドロドロした部分を感じた?
「ドロドロした部分というか、ちょっとサイコパス気味ですよね。ビックリしました。あんまり上谷ってびんたとか打撃とかをする選手じゃない。私の記憶ではそうだったので。私の土俵に、持ち込むっていうか。そういう試合にはならないのかなと思ってたら、ケガをしてた部分をわざと攻めたというのもあるんですけど、いままで見たことのない上谷が私は見られたなって、ちょっとビックリしてます。アゴがまた、エラが腫れちゃうんですよ(笑)。宇宙一かわいい顔が…また宇宙一パンパンな顔になっちゃいます」
昨日の敵は今日のコズエン。白川とウナギが第3試合で闘い、一緒に中野を第5試合で応援し、中野の仲裁でお互いに手を差し伸ばした。
新型コロナウイルスの影響で大会日程が変わりゆく。気がつけばコズエン対決と中野2度目防衛戦は横浜ビッグマッチに同居した。前哨戦も直前会見もインタビューもSNSもひっくるめて、コズエンは横浜を自分たちの物語の舞台にしてみせた。
それでありながら第5試合で中野が見せたのは、白ベルト王座という牙城だった。シンデレラトーナメント覇者は3年連続で白ベルト戴冠を昨年まで果たしていたわけだが、その阻止はこんなにも重い。身をもって示した中野は上谷に、白川に、ウナギに問いかける。「ここまで這い上がれ」と。
中野は上谷を冷静に分析した。
「白いベルトは女の子の汚い部分が露呈するベルト。ベルトの価値観としては今は赤いベルトが団体ナンバー1だと思われているけれど、私は白いベルトをスターダム最高峰のベルトにしたい。嫉妬、人の汚い部分が露呈するのが女子プロレス特有の魅力だと思っています。女子プロレスにしかないベルト、ということはスターダムにしか見せられないベルトだと思う。だったら、だから、そういう試合を見せて、だれからもこれがスターダムの象徴のベルトだね、と言われるようにしていきたいです」
いつまでプロレスを続けるかという問いに、長めの沈黙のあと、中野はポツリと言った。
「長くて2年くらいかな」
(中略)
COSMIC ANGELSは3人の少人数。中野をリーダーに白川未奈とウナギ・サヤカがいる。
「二人には、たむをもっとメラメラさせてほしい。私はつまらない。上ばっかり見ていたのに、見られるようになったんだな。人の面倒は見られないから、たむさん、たむさんと言われることに慣れていなくて。もっと同じ目線で見てきてほしいな。自分が強いっていう自覚はないんです。中野たむ大丈夫か、ってずっと言われてきたから。アイドル上がりだろう、弱っ、て感じだったから。弱いからこそ、気持ちの強さで負けない、と頑張って来ました」
(中野たむ「気の多い女は嫌いだよ」 “女の子の汚い部分が露呈する”白いベルトをスターダムの最高峰にできるか(Number Web))
コズエンを引っ張るようになった。白ベルトを巻いた。そんな中で「白いベルトをスターダム最高峰のベルトにしたい」と野望を抱え、「弱いからこそ、気持ちの強さで負けない」スピリッツを後輩に植えつけようとしている。それを“長くて2年”というのだ。どれだけ生き急ぐのか。
プロレスとは、男女問わず、時代を問わず、「プロレスとは何かを考える」ことであり続ける。
おまけ。
中野はこの日もまた、試合後に天井を見上げた。
選手コールはおなじみのロープ登り。そして、ピョンと飛んだ。
コズエン再団結で花道を引き揚げる前には、エプロンからピョンと飛んだ。
何かをせいいっぱいしていないと落ち着かない。そんな中野の根っからのプロレスラーぶりは、どれだけ行数を割いても伝えきれないものでもある。