宇宙一カワイイというアプローチの本質 中野たむとは何だったのか後編
2025年4月27日、上谷沙弥との「敗者引退マッチ」に敗れ引退。宇宙に煌めく“たむロード”を完結させたスターダム・中野たむを、引退イヤーラストにふり返っておきたい。「中野たむとは何だったのか」を問う後編。
(写真はカクトウログ撮影)
[前編はこちら:4年間大会でのベストバウト獲得は58% 中野たむとは何だったのか前編]
[中編はこちら:「好きなプロレスラー」で史上初の男子越え 中野たむとは何だったのか中編]
コズエンは「新しいものを打ち出したというより、自分が持っている感性を全面に打ち出した」
中野本人に話を聞いていると、質問を予告した取材ではまったくないのに、思いもよらぬワーディングで答えをくれることがあった。
2023-09-11 中野たむ&白川未奈の本音テイクオフ ドリームタッグフェスにDREAM☆H
[https://kakutolog.info/wrestling/stardom/30396/]中野 未奈(白川未奈)とウナギ(ウナギ・サヤカ)がいたからコズエン(ユニット『COSMIC ANGELS』)がある、それは間違いないです。新しいものを打ち出したというより、自分が持っている感性を全面に打ち出した感覚もあります。うーん…ただただ唄って踊れる女の子たちの生き様を見せたかった。いわゆるアイドルと言われる人たち。本当はアイドルは唄って踊って生き様を見せる人たち。私たちは唄って踊って闘うことで生き様を見せる人たちなんですよね、コズエンは。
ただただそれを、未奈とウナギとやったっていう。うーん…新しかったですか?(とカクトウログに聞く)
カク そうですね、(コズエン結成)当時のスターダムというところで強さとカワイイの両立を高らかに言っていいのかがちょっと曖昧なところがあった気がして。
中野 あーあ、そうですね、確かにそうかも。なんか、やっぱりカワイイ(というアプローチ)っていうのはハンデでもあったわけですよね。カワイイってだけでなんか中途半端に見られちゃうというか、遊びでプロレスをやっているんだろみたいな。
カク レスラー然と見られないような。
中野 はい。“腰掛けプロレス”でしょ、みたいな。それはカワイイっていうのは武器じゃなかったわけですね、レスラーにとっては。ハンデで・・・コズエンもめっちゃ言われたし。『アイドル崩れがプロレスやってる』とか『芸能のためにやってる』とか。『チャラチャラして技もできてない』『弱い』『唄って踊るならアイドル戻れよ』すごいいろいろ言われたけど…それが、カワイイっていうことが武器になった初めてのユニットなのかな。どうなんでしょ?
「新しいものを打ち出したというより、自分が持っている感性を全面に打ち出した」「やっぱりカワイイ(というアプローチ)っていうのはハンデでもあったわけですよね」これらの言葉には、インタビューの最中に唸らされたことを今でも覚えている。
もともとスターダムはHカップグラレスラーとしての愛川ゆず季の存在から出発した。のちに女子プロレス団体としての本流にたどり着いたところで、コズエン誕生。まるで揺り戻すような動きともなる。SNSでも叩かれ、アンチの存在も大きかった。
それでも試合評価で見方を覆し、アワードで実績を重ねていく。中野の活躍は、スターダムの拡大と同期した。
当サイトではコズエン結成大会のレポートに「自己陶酔型のチャラいナルシストを演じた棚橋弘至ばりの新たなる価値観を提示すればいい」と記している。
自身の感性を信じたのが、創業者や昭和プロレスの思想に背を向けた棚橋だ。キャッチーでポップな、会場の全員が盛り上がれるプロレスを標榜する。大ブーイングを何度浴びても、自己陶酔型のチャラいナルシストとして「100年に1人の逸材」を名乗った。
中野もまた、自身を貫き「宇宙一かわいいアイドルレスラー」であり続けていく。中野が2025年、棚橋が2026年と1年違いで引退とは何たる運命だろうか。
なお、「宇宙一かわいい」と自身を評しながらときおり他レスラーのかわいさを妬み、自身に「あれ、宇宙一かわいいはずだけど」というニュアンスでボケるのが中野。これは「疲れたことがない」と言い張る棚橋の得意のくだりとどこか似ている。
“折り合いをつける”ということが苦手。裏表がない、24時間プロレスラーであった中野たむ
どちらかというと中野経由で“アイドルの世界の過酷さ”を認識したプロレスファンも多いかもしれない。中野は自著『白の聖典』で次のように記している。
「(対バンライブ持ち時間)20分の間、休みなく全力で跳ね回り続け、息がきれて歌声が小さくなっていくことは許されない。カタモミ女子はMCが得意なメンバーがいなかったので、正真正銘30分間、間髪入れず踊って歌い続けるときもあった。休めるのは、落ちサビで後ろを向いている(曲の最後の)5秒間だけ。とんでもない体力と肺活量が必要になる。練習では3回通してリハーサルすることもあった。息がきれて手足の動きが鈍くなってくると『気抜くなブス!』と怒鳴られた上に、トイレ掃除をさせられた」
それでいて中野は「誰かと人生を共にできる喜びを、アイドルという職業を通して初めて知った」とも綴っている。アイドルを経由したからこそレスラーとして大成した中野だが、よくも悪くも“折り合いをつける”ということが苦手だ。
2023-04-17 髪切りとジュリアを超えてゆけ 中野たむ白の武道館から赤の横アリへ
[https://kakutolog.info/wrestling/stardom/cosmicangels/27917/]中野 STARSでコズエンをつくって、独立して…って(中野自身が)やってきたことだから、すごく未奈の気持ちは手に取るようにわかって、そばにいるからこそ未奈の気持ちはわかっていて。私は未奈にはそばにはホントいてほしいと思ってたけど。未奈にとって、いちばん輝ける、いちばん未奈が輝く未来をつかめる道を進んでほしいと思ってたから、いつかこういうときが来るというのはわかってました。わかってたし、その決断を…きっと未奈もいろんな葛藤があったと思う。
カク はい。
中野 でもいろんな迷いとかを振り払って、覚悟を決めてほしいという気持ちもあったから、「未奈にとっていいこと」と「私はホントは離れたくない」という気持ちとの間で・・・初勝利への思いでコズエンがホントに団結してたところでの月山(和香)まで・・・すごく引き裂かれそうな思いです(言葉が詰まる)。
仲間との別れがあるたびに、コメント中ではない時間帯でも割り切れない思いをバックステージでも口にしていた。ある番組でドッキリを何人かと一緒に仕掛ける側だったのに、言われる側に感情移入してしまい泣きそうになったこともある。
制御されることなくストレートにダダ漏れしていく思い。すべてを闘いに昇華させ、24時間プロレスラーであった中野たむ。突き詰めるとそこに、ファンは惹かれたのだ。














中野たむ プロフィール
出身地 愛知県安城市
身長 157cm
体重 50kg
デビュー戦 2016年7月18日、新木場1st RING(vs安納サオリ)
得意技 トワイライト・ドリーム、バイオレット・スクリュー・ドライバー、タイガー・スープレックス・ホールド
来歴
アイドル活動を経て、2016年にアクトレスガールズでデビュー。翌年、スターダムに入団。当初は大江戸隊に属していたが、追放処分となりSTARSに加入。2020年11月、白川未奈&ウナギ・サヤカとSTARSの内部ユニットCOSMIC ANGELSを結成。のちに独立ユニットとして始動。2021年3月3日、日本武道館の10周年大会のメインで、因縁のライバルであるジュリアを破りワンダー王座を初戴冠。2023年4月23日の横浜アリーナ大会では史上2人目の“赤白二冠王者”に君臨。同年のプロレス大賞で女子プロレス大賞に輝いた。
2025年4月27日、上谷沙弥との「敗者引退マッチ」に敗れ引退。















